[高等部通信]学園長より~可能性の扉~④

2017年1月10日

4、第9回自然学園定期講演会

自然学園では発達のつまずきのある子どもたちの理解を保護者の方々に深めてもらう機会として発達障害がある子どもたちの保護者の方々を対象にした発達障害セミナーを自然学園の定期講演会として開催しています。保護者の方々と共に発達のつまずきのある子どもたちのより良い支援方法を考えていく勉強会にしたいと思っています。
12月4日(日)の10時から春日部市民文化会館にて第9回目となる定期講演会が行われました。今回の定期講演会は主題に応じて第一部は『「児童,思春期精神科医師からが考える発達障害がある子どもたちの手帳取得」~進路に対する有効性と合理的配慮がもたらす支援効果(学校教育や社会生活における具体的な事例)~』がテーマでした。
平成28年4月障害者差別解消法の成立に障害者が働く事業所では合理的配慮規定等が施行されるようになりました。すべての障害をもった人たちがその障害によって差別を受けることなく企業で働くことができるようになりました。
平成28年5月に発達障害者支援法が改定され、今まで以上に発達障害者が社会に受け入れやすい自立の実現を視野に入れた改正内容になっています。平成17年の発達障害者支援法施行後の発達障害者への企業就労の変化は上記で説明したとおりです。しかしながら、いまだに精神障害者保健福祉手帳の取得をためらっている保護者の方々が多くいることも事実です。中には療育手帳は取得したいけれど精神障害者保健福祉手帳は取得したくないという声も多く聞きます。そのような背景から今回の発達障害者支援法の改定内容に、発達障害者の障害者手帳の発行を検討する提案も盛り込まれているようです。
それにともない発達障害がある人たちの手帳取得が彼らの自立に向けた有効な手段として大きな課題になっていくと思っています。今回は手帳取得に関する正しい知識と発達障害がある人たちの特性を考えたうえで手帳取得が彼らの実生活や将来の自立を考えるうえでの有効性を具体的な事例を交えてお伝えする講演内容を予定しました。
第一部は自閉症を専門に長年、児童・思春期精神科医として数多くの発達障害児童を社会に送り出してきた海老島宏先生が、医療現場の視点から手帳取得について、その有効性についても踏まえての講演をしていただきました。
 まずはなぜ手帳が必要なのかについて①就労②生活③医療介護に関する行政サービスを説明していただき、次に手帳の種類と取得方法についてのお話がありました。生活に関する特別児童扶養手当や特別障害者手当は、障害基礎年金以上にあまりなじみのない手当で福祉のことをよく知らない人はまず申請しない手当ではないでしょうか。特別児童扶養手当は、20歳未満の精神または身体の障害を有している児童の監護、養育をしている父母に支給される手当で特別障害者手当は、20歳以上の日常生活において常時特別な介護を有する重度の精神または身体の障害を有している者に支給される手当のことです。当然当事者やその家族から申請しなければ市町村の役所からは通達されることはありません。両方とも申請が通れば大きな金額が毎月支給されることになります。

このような仕組みを理解し、最大限活用することが大切であると海老島先生は話していました。そのためにはまず、手帳を取得することです。知的障害や精神障害は、医療機関や保健所等に行って診断を受けることで証明されるので、まず信頼できる主治医を見つけることが大切であるとのことでした。20歳を超えた障害を抱えた子どもを守ることは親の役割なのでそのためには親の偏った考えで手帳を取得しないことのないようにしなさいとの話がありました。そして手帳はパスポートと同様、取得した後に手帳を使うか使わないかは自由であり、必要な時に持っていないとお子様が困るものだということをお話しされていました。障害者手帳の取得は守秘義務が必ず守られるものであり、戸籍、学歴などには記載する義務もなく一切の記載はされないとのことでした。
このようなお話で、とても安心された方々も多かったのではないでしょうか。就労に関しても先程お話しした合理的な配慮に基づき、障害に応じたさまざまな配慮が実施されるようになり、そこで働く障害者の精神的な負担も軽減されたと思っています。今後ますますそのような配慮に基づいた職場環境の改善が進んでいくと予想されます。発達障害者のスキルに応じた処遇や労働条件は、その貢献度に応じて一般就労での入社条件と同様に向上していく時代になっていくと私は思っています。
第二部は、社会福祉主事(スクールソーシャルワーカー)で自然学園の特別支援コーディネイターであり、長年、発達障害や不登校生徒を対象とした通級や、情緒障害がある児童を対象にした特別支援学級等で指導されてきた小川文子先生が、「発達障害がある子どもたちの障害の受容と手帳取得について」をテーマにして、さらに海老島先生の話を受けてより具体的に手帳取得の手続きに関する手順までご説明してくれました。当日ご参加いただいた多くの方が、この定期講演会の内容が少しでもお子様の今後の人生の参考になればとの思いで今回の企画を立案させていただきました。
発達のつまずきを抱えた子供たちの進路を考えるうえで必要なことは、最初から能力を限定し、従来の既定路線に子供たちの可能性を押しはめていくことではなく、まずは生徒たちの可能性を引き出す環境を整え、いくつかの進路選択を提供していくことが優先であると私は思っています。

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