[高等部通信1月号]学園長より~可能性の扉~2-②

2021年2月4日

(2)ワーキングメモリを補う学習支援

ワーキングメモリが起因した短期記憶や処理は、言語的短期記憶と言語性ワーキングメモリそして視空間的短期記憶と視空間性ワーキングメモリと言う4つの側面の記憶と操作の特徴があるそうです。数、単語、文章といった音声などの情報を取り扱う言語の領域のワーキングメモリとして言語的短期記憶は言語の記憶のみ、言語性ワーキングメモリは、記憶と処理に該当するそうです。イメージ、絵、位置などの情報を取り扱う視空間の領域は、視空間的短期記憶は記憶のみ、視空間性ワーキングメモリは記憶と処理に該当するそうです。具体的に言うと、言語的短期記憶は保護者や先生などの口頭などでの指示が入り、行動として実践できる能力に直結し、言語性ワーキングメモリは、作文や日記などを書くときに記憶したことを思い出して文章にまとめたり、要点を整理したりする力でいかに読み手に自分の思いや考えを伝えるかの文章力に直結します。

人の話をするときの文章の構成も同様の能力が起因すると思います。また視空間的短期記憶は黒板の字をノートに書き写すときの字の形など位置情報の短期記憶の弱さが何度も板書の文字を確認してもうまく行や枠に収まらず、スムーズに書き写せない困難さに直結します。漢字も書き順を追って視覚から認識した漢字を構成するパーツの形や位置情報を記憶し、記憶した書き順に沿った形を組み合わせ構成することで漢字が覚えられるのです。その際の短期記憶が弱いと組み合わせる作業に困難さが生じてきます。視空間性ワーキングメモリは、算数を学習する基本である「数処理」に関係してきます。「数処理」とはまず数を聴覚から音声情報の数詞(いち、にい、さん・・・)として記憶され、数の具体的な量を視空間の記憶としてイメージ的に置き換える必要があります。イメージとして頭に浮かんだ事物や事象の量を数えることで数と量が一致するのです。これを基数性といいます。

言語的短期記憶と空間的な短期記憶が一致できれば、数処理が可能になり、算数の文章問題やグラフ問題を解くことが可能になります。
このように勉強においても学校生活にワーキンングメモリは露骨に関係しています。このことは広島大学の教育学の教授である湯澤正通先生の著書を参考にさせていただいています。

漢字の記憶の場合、視空間的短期記憶の弱い生徒は書き順を追って何度も漢字を書き写し、視覚から認識した漢字を構成するパーツの形や位置情報を記憶することが困難です。繰り返しの書写は生徒にとっては「書く」ことの負担も重なり、記憶することまで至らないばかりではなく、学習意欲も減退してきます。その場合、言語的短期記憶で覚えた数詞やカタカナなどの音節文字の字体を想起させて「学ぶ漢字」をイメージさせることで記憶として残りやすくなります。また部首などの形の表記をことばによってイメージさせて記憶を助ける覚え方も効果的です。視空間的短期記憶のつまずきを優位な言語的短期記憶で補助することが、このようなつまずきのあるお子様には必要になってきます。文章読解などは言語性ワーキングメモリの弱さから内容が読み取れない(読み進めると書かれてあることを忘れてしまい整理できず文章理解に結び付かない)お子様にはイラストや写真などと結び付けて文章を読み、内容を整理することで読解の力が上がることが確認できます。このことは優位な視空間的短期記憶で言語的短期記憶の弱さを補う学習支援であると思います。

算数が苦手なお子様は先ほどお話しした数処理の音声情報の記憶から数の具体的な量を視空間の記憶としてイメージ的に置き換えることの困難さを「おはじき」などの具体物を利用し、視覚から認知し数えることで数処理を補うことができます。文章題なども問題を解法するために必要な視空間性ワーキングメモリの弱さをイラストや図などでイメージ的に置き換えを補助することが可能です。

足し算や掛け算の「ひっ算」で必要とされる繰り上りや引き算で必要とされる繰り下がりの数を視空間的短期記憶の弱い生徒は記憶することができず暗算を間違えやすいのです。「ひっ算」の表記に繰り上りの数を明記する欄を補助することで視空間的短期記憶の弱さを補い「ひっ算」を間違え難くする学習支援に結び付きます。

このことからもわかるとおり、一人ひとりの感覚的な偏りや情報を処理する認知力の凸凹を把握できれば、どのような覚え方なら記憶し処理しやすいのか、どのように課題を提示したら課題に取り組みやすくなるのか、どのように問題や課題のプリントを工夫したら解答欄に答えが書きやすくなるのかなどを考えて課題や問題に取り組めるようになることは不可能なことではありません。

以上のことを学習支援の課題に取り入れながら、一人ひとりの学力的なつまずきに対応し、学習が定着する授業を高等部では心がけています。以上のことを生徒の皆さんは冬休みの後期学力考査の試験勉強の参考にしてください。

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