[高等部通信11月号]学園長より~可能性の扉~3

2019年12月24日

3、第11回自然学園思いやり収穫祭(学園祭)特別企画の報告
【卒業生座談会『僕たちの未来』】

自然学園が開校してから13年目を迎え、高等部や大学部の就職においても卒業生の皆さんの頑張りで多くの人たちが社会に巣立つことができています。
思いやり収穫祭の特別企画として毎年開催している座談会『僕たちの未来』をパネルディスカッション形式で、自然学園の高等部を卒業した卒業生の皆さん7名で今年も行いました。自然学園を卒業したOB・OGに今現在の自分のこと、今、就職を目指して取り組んでいることや就職活動や企業実習の際の苦労、仕事の悩み、職場での業務の内容や人間関係の悩みなどを話してもらいます。自然学園の思い出や学校生活のことなどを触れながら、人生のターニングポイントや自分自身のこれからの未来に向かって、精一杯、思うような人生が送れているかを語り合う企画です。またそのことで今同じように就職活動や企業実習の際、苦労している後輩たちや、自分の進路を決めかねている中学生の皆さんや、そのような状況に置かれたお子様をお持ちの保護者の方々が卒業生の話を通して、発達障害者における就労の現実や特例子会社も含めた発達障害者をはじめとした知的障害者、精神障害者を受け入れる企業の現状を少しで具体的に理解ができ、ご自分のお子様と重なり合わせて「働くこと」のイメージができればうれしい限りです。実際には彼らの話で勇気や安心を感じられた参加者が多かったのではないかと思っています。

 働き方改革で障害者就労が注目される中、障害者を受け入れる企業の実情を彼らの話す職場環境や業務内容を参考にしながら理解し、実際に働いている彼らが企業で貢献するために必要なことや企業が求めている能力を考え、企業で働くためには、どのような準備をしたらよいか、自分が求め希望する職種に就くことができるのか、適性を重視した業務に従事することはできるのか、つまずきに対しての合理的な配慮はどこまで可能で全ての企業に浸透しているのか、企業実習はどのような感じなのかを読み解くうえでは卒業生の話は非常にユニークで現実的な話でした。

また自分らしく高校生活が送ることができる進路を探している中学生や、これから中学生になる人たちや保護者の方々を対象に座談会を通して、進路選択で一番不安になっている卒業後の進路や学生生活について彼らの経験から思うことを話してもらうことで、その参考にして頂ければとの趣旨がありました。また卒業後すぐに就労した生徒だけではなく、大学や職業能力開発センターや就労移行支援事業所などから就職した人、また目指している人の現在の様子などの話をしてもらうことで高等部卒業後の選択肢も具体的にご提示できればと思っていました。

現在、企業に就労している人たちは、仕事内容で苦労したこと、壁にぶつかったとき、どのように乗り越えられたか?職場の人間関係と自分なりの付き合い方など、これから就職を考えている人たちが不安に思っていることを話してもらうことで障害者就労の現状を彼らの体験を通して理解してもらうことを趣旨としています。

座談会に参加した卒業生の一人は、自分の特技であるPCのスキルを生かした事務的な業務ができる企業の入社を希望して、卒業後すぐに就職せずに就労移行訓練サービスを行っている就労移行支援事業所でPCスキルを学んでいました。中学生の時からパソコン教室に通いPCの入力には長けていた生徒でした。しかし就職活動が難航していたそうです。本人はその理由として面接を挙げていました。元来、「心の理論」と呼ばれる相手の気持ちになって考えることが苦手で、企業の面接官の質問の意図が読み取れず、自分の思いを一方的に話してしまい、相手の聞きたいことを話すことができませんでした。
企業が採用基準として挙げている条件の一つとして、グループワークで見られる協働できるコミュニケーション力と協調性や相手を意識し、状況を認知できる視野の広さです。
PCの入力スキルだけを見られるわけではありません。特例子会社等の事務系の仕事は、PC画面に向かった入力の仕事だけではありません。軽作業、清掃、雑務などはどうしてもどの企業でも要求される仕事です。
そうであれば相手の指示を最後まで聞いて理解できる能力が必要です。分かりづらい内容は確認して慎重に行動できることが要求されます。指示を早合点して早急に行動してミスを犯してしまうよりは、ゆっくりでも指示通り行動できる能力が必要とされます。
ミスを犯してしまったら素直に謝り、次の行動の指示を仰ぎ、的確にミスを補える愚直さが要求されます。ミスを隠そうと嘘をつき、言葉巧みに言い訳する人はむしろマイナスになります。
面接に関して面接官が重点に置くところは、こだわりを押し通す強い意志ではなく、素直な柔軟さです。協働が可能になる認知からくる気遣いやルールに合わせられる忠実性です。

本番ではいつも面接に力が入りすぎて、すこしでもプラスの材料になると思ったことを話しすぎて一方的な答弁で面接官に誤解を与えてしまっていたようです。

採用のポイントは、自分自身のつまずきを把握して、そのつまずきを少なくするためにどうしたらよいのかを理解し対処方法を知り、そのことを実行できる能力です。
ミスを起こしてしまったらすぐに助けを求め、素直にアドバイスを聞き入れ行動に転換できる能力です。当然誰でもミスを犯してしまうことがあります。その時に指示があおげるコミュニケーション力や自分の欠点を相手に伝えられ配慮を求められるソーシャルスキルが要求されるのです。それを判断する材料として最近はグループワークが多く導入されています。
自然学園の先生方に励まし支えてもらったことが、気持ちが切れなかった理由だと話してくれました。本人も相当落ち込んだようです。その卒業生は、なかなか就職が決まらず面接に臨むたびに不採用になって精神的に不安定になったとき、自然学園の先生方の励ましが心の支えになったと話してくれました。やはりコミュニケーションが一方的で人と協調してグループ活動をこなすことが苦手な生徒でした。自分の欠点を認め理解できたときから面接官の対応が変わり始め、内定を頂くことができたようです。

卒業後すぐに就職した1人の生徒に関しても最初はなかなか思うように会社に適応できなかったと話してくれました。当然、怒られることもあったようですあいさつがうまく先輩方にできず人間関係でうまくいかないことが続いたようです。また一人の卒業生は、清掃の業務で自分の納得ができるまで、自分の決めた手順で丁寧に作業をすると決められた時間内に作業が終わらないそうです。こだわりをなくすことが今後の課題であると話していました。また一人の卒業生は読むことの苦手さがあり、分別ごみの種類で書いてあるゴミの種類を認知できず、最初は苦労したそうです。自分の臭覚を使い分別した工夫を話してくれました。彼らは自分のつまずきに素直に向かい合い、会社の人たちと話し合い、自分を受け入れてもらう努力をすることで会社の人たちに認めてもらい、どうしてもできないことは配慮してもらいながら今現在職場に適応することができていることを話してくれました。

今,自然学園の高校3年生は、必死になって企業の内定を取り付けるために、就労実習に臨んでいます。企業見学や説明会、一次面接をクリアしながら、最終の就労実習を終えて、企業から採用の通知を受け取った人たちが少しずつ増えてきました。やはりいち早く企業から認められた生徒を考えてみると非常に素直で、何事も積極的に取り組んできた生徒です。そして何より就職に対しての意識が高く、クラスの仲間を気遣うことができ、学校行事でもクラスの団結や協調性に積極的に貢献する人たちです。それは入学した時から持ち合わせていたスキルではありません。学校生活を通して、時間をかけて積み重ねてきた自分に対しての自信や友達との信頼関係が社会性の向上を後押しした結果だと思っています。決して言葉が巧に扱え、コミュニケーション力が優れている生徒ではありません。どちらかと言えば不器用で自分の気持ちを表現することが苦手で自己PRが下手な生徒です。

ですが3年間積み重ねた努力や彼らの誠実さをちゃんとまわりの大人は見ていてくれると言うことだと思います。このようなイベントを通じてこれから就職を考えている人たちに勇気と希望を持ってもらいたいと考え実施に至りました。少しでも多くの人たちに「感動」を与えられた座談会であったならば幸いです。ご参加いただいた卒業生の皆さんお忙しいところありがとうございました。

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