[高等部通信11月号]学園長より~可能性の扉~4

2019年12月27日

4、自然学園におけるSSTの考え方

自然学園で実施しているSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)の授業もその目的は、社会に参加するために必要とされる人とのかかわり方やルールを学び、コミュニケーションスキルを向上させていくことにあります。将来お子様が働くうえでも必要とされる重要なスキルがソーシャルスキルです。

保護者の方々からご相談を受ける内容として最も多いものは、人とのかかわりに関する悩みだと思います。「対人的な緊張で自分の気持ちがうまく伝えられず、ぎくしゃくした振る舞いになってしまう」「うまく挨拶や謝ることができない」「友だちをうまく誘えない、うまく友だちの仲間に入れない」「乱暴な言葉が多く、ルールを守れないことでトラブルが多い」「言葉のキャッチボールが苦手」などがあります。

幼児期に最初に経験する家庭以外の社会的な結びつきは保育園や幼稚園の入園だと思います。そのなかで「みんなと一緒に遊ぶことができない」「お遊戯がみんなと一緒におどれない」「みんなと一緒に先生の話を聞くことができない」「いつも落ち着かない」等の理由から先生方に指摘を受けることで、発達のつまずきに気付かれる保護者の方々が多くいると思います。発達のつまずきに対する療育は、保護者の方々がお気づきになった段階でなるべく早く開始した方がいいと思っています。発達障害のお子様のこれらのつまずきは①認知機能の弱さ②身体的不器用さ③融通の利かなさ④感情理解の乏しさ⑤対人スキルの乏しさ⑥不適切な自己評価などの特性からくることが多いと言われています。

「ソーシャルスキル」とは 対人関係や集団行動を上手に営んでいくための技能(スキル)のことです。言い換えれば、対人場面において、相手に適切に反応するために用いられる言語的・非言語的な対人行動のことで、その対人行動を習得する練習のことを「ソーシャル・スキル・トレーニング」といいます。
ソーシャルスキルは先天的に獲得される能力ではありません。人は生まれてから多くの人たちと関わりながら知識を身につけ成長していきます。ほとんどの子どもはわざわざトレーニングをしなくても、親や周りの人の行動を見聞きしたり(観察学習)、「挨拶しなさい」「そんなことを言ってはいけません」などのように言葉で習ったり(教示)して、自然に社会生活に必要な行動を習得し、小さな成功体験を積み重ねることで自己肯定感も育っていきます。しかし、発達面にアンバランスさのある子どもは、それらのスキルの習得に何らかの困難さを抱えていて、単に学校や家庭等で社会生活を過ごすだけでは適切な対人関係を築くことが難しいのです。

挨拶は人のコミニュニケーションを図るうえでも重要な振る舞いの一つです。相手に受け入れられ、自分の苦手さに対して手を差し伸べてもらうには、相手に受け入れてもらえるソーシャルスキルが必要になります。挨拶はそのために必要なスキルです。SSTであいさつだけを練習させてもあまり社会で役に立ちません。相手との目線をあわせられず、相手の表情を見る余裕がなければ、あいさつから人との関係を築くことはできないのです。挨拶には、相手に対しての認知力が求められてきます。その時の相手の気持ちや体調を表情やしぐさから読み取ることで、そのあとのコミュニケーションに結びついていくのです。そしてその積み重ねが人の信頼関係を構築していきます。そのことを学ぶことがSSTだと思っています。

選択性の緘黙症があり人前で言葉を発することが困難な人の場合には、頭を下げる挨拶の行為だけでその人の気持ちや誠意が相手に伝わることがあります。
人の気持ちは受け取る人の感情に左右されることがほとんどであるので、その人の困難さを理解したうえで適切な指導をしなければなりません。
その困難さは、その子どもの持つ特性によってさまざまです。たとえば、衝動性が強く感情のコントロールが苦手な子どもは、わがままで乱暴な子と誤解されたりします。また、人の表情が読み取りにくく場の雰囲気を理解しにくい子どもは風変わりな子・自分勝手な子と思われて友達との人間関係がうまく築けず集団生活が送りにくかったりしています。特に、集団の中に入りにくい子どもにとっては、人との関わりの場を持つことが少なく、スキルの獲得が困難になりやすい傾向があります。
そのため、このような対人関係につまずきを示す子どもたちがそれぞれの発達段階において獲得すべきスキルの習得のためにはソーシャル・スキル・トレーニングが必要となるのです。
 
  そして有益なSSTをすすめるためには一人ひとりのお子様の特性を理解することが必要になってきます。家庭での理解も大切な要素になります。バンブー教室の冬期講習で始めさせていただいたペアトレSST講座は、保護者にお子様の特性を理解してもらい、より良い行動を多くするための適切な対応を学んでいただくための講座です。自然学園高等部でも保護者の方々に、定期講演会、保護者会などを通じて、お子様の発達のつまずきの特性を理解してもらい、お子様が日常生活の息苦しさを解消して、好ましくない、相手に受け入れてもらえない行動や振る舞いが少しでも好ましい行動に改善するためにはお子様とどのように接していったらよいかをご理解いただき、一緒にお子様の療育も含めた教育的な支援に取り組んでいきたいと考えています。

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