[高等部通信4月号]学園長より~可能性の扉~4-①

2021年4月22日

4、家庭学習をスムーズに進めるための学習支援

 

学習のつまずきは、読む、書く、聞くなど、情報を処理する認知の偏りに起因しています。「読む・書く」に苦手さがある人は、問題文や文章などを読んで、設問に応じた答えを解答欄に筆記することは困難を極める行為です。中学生時代の学力考査の前に提出を義務づけられていた教科書ワークは、たとえ答えを写すだけだとしても、解答を書き写すだけで他の勉強は手につかない人が多かったことと思います。

 

このような人の場合、ワーキングメモリに原因があることが考えられます。ワーキングメモリとは、情報を一時的に記憶・処理する能力で、頭の中のメモ帳の役割をしている機能です。

マンツーマンの学習においては一人ひとりの感覚的な偏りや情報を処理する認知力の凸凹を把握できれば、どのような覚え方なら記憶し処理しやすいのか、どのような課題を提示したら課題に取り組みやすくなるのか、どのように問題や課題のプリントを工夫したら解答欄に答えが書きやすくなるのかなどを考えれば、宿題における課題や問題の学習に取り組めるようになることは不可能なことではありません。昨年度は新型コロナウイルス感染の防止対策として全国の公立学校に休校要請が出され、家庭での学習が余儀なくされたことを踏まえ、家庭での課題学習を苦手とするお子様にワーキングメモリと学習との関係性や家庭学習の無理のない進め方をお話ししたいと思います。

 

(1)学習における記憶力について

まずは学習における記憶から説明します。

視覚、聴覚、いわゆる目や耳などの五感から入ってく情報はほんの数秒間だけ記憶として保持されます。この感覚記憶のなかで興味や関心があることや自分の中で意味のあることだと選択された記憶が短期記憶として残ります。感覚記憶よりも少し長い数秒間から数分程度保持される記憶が短期記憶です。短期記憶を「長期記憶」にする過程があります。長期記憶へとつなげるためには反復学習が必要です。勉強で学んだことを何度も繰り返し、復習するわけです。短期貯蔵庫に一時保存された情報を繰り返し復唱して記憶を強化する過程がこれにあたります。勉強の得意な生徒で、試験の得点も取れるお子様は、単に「記憶力がいい」「頭がいい」のではなくこの復習が苦労なく行うことのできるお子様です。これに相当する心理学用語に、「リハーサル」という言葉が用いられます。リハーサルとは、『短期記憶の忘却を防いだり、長期記憶に転送したりするために、記憶するべきことを何度も唱えること』とされています。

 

短期記憶の貯蔵庫で、頭の中で情報を復唱する「リハーサル」を繰り返し行っていると、その中の幾つかの情報が長期記憶の貯蔵庫へと転送されていきます。リハーサルの回数が多いもの、選択的注意の程度が大きいもの(印象が強烈なもの)ほど、重要なものとして短期記憶から長期記憶へと定着する可能性が高くなります。

 

記憶や空間学習に関わる脳の器官である海馬に情報が転送されます。そこでの短期記憶は、諸説ありますが1か月程度保持されるようです。海馬にある記憶は1か月以内に消える危険のある、不安定な状態の記憶です。その間に「生きていく上で必要な情報か否か」という視点から審査を受け、必要と認識された重要情報のみが側頭葉を始めとした大脳皮質へ情報が送られ、本物の記憶(長期記憶)へと移行するようです。受験の勉強方法においては、最低でも海馬の段階をクリアして、側頭葉などの大脳皮質に保管しなければ本物になりません。試験に出る漢字が頭に入らない、英単語が覚えられない、と悩んでいるという人は、1か月以内に繰り返さないことが原因です。最初の1か月で何度も繰り返し復習していくことによって、長く忘れない本物の記憶にできるのです。ただ暗記が苦手なお子様には情報の認知およびワーキングメモリの問題があって、興味のあるものや視覚的に具体的なものなどが結びつかないとイメージすることがうまくできない人がいます。そのような人の場合、言葉の音韻だけだと頭に残らず、記憶に結び付けられないことが多いので、授業での理解やテキストからの言語理解ができず、学習することが疎かになってしまう要因になり、自分は勉強が苦手だと思い込み、学習を遠ざけてしまうことで学力不振の原因になっているお子様方が多いように思います。

 

(2) 学習無気力に至る過程

勉強ができるようになるためには、復習が大切だとして、学習時間を多くとるために勉強部屋にお子様を押しこんで、無理やり課題を押し付けてもおそらく、部屋から逃げ出してしまうか、漫画やゲーム、落書きなどに没頭して一向に勉強が進まないでしょう。居眠りをしてしまうお子様もいるでしょう。

冒頭にお話ししたように認知面のつまずきや微細運動などのつまずきに見られる感覚統合の問題から、板書をノートに書き写すことが遅い、先生の話が頭に入らない、説明を理解して教科書の練習問題が解けない、先生の質問に答えられないなどの授業における困り感が学習意欲を喪失させ、怒られたり、注意されたり、できないことをからかわれたりされたことをきっかけに勉強が投げやりになってきます。同時に自分は勉強が他の子と比べてできないと言う思いからクラスや学校にも自分の居場所がなくなってしまいます。できないことを指摘されて褒められることが少なければこのような状態になるのは当たり前です。自己肯定感が低い子は「勉強すればどうせできない」、「できないことを怒られる」「だから勉強をやってもしょうがない」「勉強をしたくない」「勉強から逃げ出したい」といった思考パターンでますます学力不振のスパイラルにはまってしまいます。このパターンから脱出する方法を考える前に塾、家庭教師、保護者がつきっきりで教える等の勉強を強制的に強いればますます勉強をしなくなります。ゲームなど興味あることへの依存度がますます高くなることでしょう。

 

(3)勉強意欲を出させるには

このような自己肯定感の低いお子様に自信を持たせることは、お子様ができることを把握して、できないことはなぜできないかを考えていかなければいけません。自分の能力に見合った課題ならば、構造化や環境調整などの工夫でできるようになることは難しくないはずです。構造化や環境調整はあとでお話ししますが、簡単に言うと難しいと感じる課題は避け、できる課題から取り組み、できない問題は後に回し、集中できる時間を決めてその時間内でできる課題を数多くこなす取り組みをすれば必然的に勉強量が上がってきます。

できたことが多くなればその満足感が自信につながります。その時、褒められた充実感が自信イコール自己肯定感に直結していきます。また褒められたいから、別の課題をやりたいと思ってくれれば学力は間違いなく向上します。それには認知の偏りを把握して、できない原因に配慮した無理のない課題を用意することが勉強を進める上で考えていかなければいけないことです。まずは環境の整備です。

お問い合わせはこちら