[高等部通信5月号]学園長より~可能性の扉~⑤

2019年8月1日

5、この時期に起きる不安による情緒の混乱について

高等部の在籍生の中にも、この時期に在籍学校で運動会や体育祭をきっかけに学校に行くことが嫌になり、不登校になりかけている人たちもいるようです。このことで2次障害につながることがないよう対応していきたいと思っています。

今回は自閉症スペクトラムと2次的なつまずきについてお話をさせて頂きます。

自閉症スペクトラムの子どもたちは生まれつき脳の機能に違いがあり、定型発達の人とは異なったバイパスを活性化させて情報を処理していくと推測されています。ですから、できないのではなく、情報の処理のしかたに違いがあることによって覚え方が違っているのだと言われています。そしてその特性が成長する過程で、そのときの環境条件を踏まえて症状や行動としてあらわれてくるようです。

ですから私がお話しししているように、能力的にできない、不可能であるという「障害」の概念と「発達障害」で使われている障害という言葉の概念とは違うと思います。この場合の障害とは、その特性からくる「生きづらさ」であって、社会的な不適応の状態を指しているのです。

当然そのことは人によって、大きな違いがあってほとんど生きづらさが感じられない人もいれば、知的な高さを持ち合わせていて、学校の勉強には、問題がないどころかクラスでトップクラスなのに、「こだわり」やパニック性、人に対しての攻撃性が強く、クラスメートに拒絶さえ、集団適応ができない強い社会不適応性を抱えた人もいるのです。障害という意味はこのような「つまずき」としてとらえていいと思います。

発達の特性に、気づかれず怒られて傷つく体験や失敗を積み重ねて思春期から成人期に至った場合、多くは情緒のこじれからうつなどの二次的な精神疾患を併発し、「不登校・ひきこもり」などの問題行動をひきおこしてしまうことがあります。これを二次障害と言っています。

運動会や体育祭がきっかけで精神的に不安定になっている子どもたちの一般的な事例を挙げてみます。

発達障害がある子どもたちの場合、その特色として手先の不器用性を抱えていたり、なわとびやボール運動、マット運動、跳び箱、鉄棒などが苦手であるなどの発達性強調運動障害の診断を受けた人たちが少なくありません。発達性強調運動障害がある子どもたちの場合、もともと体育や運動することが得意ではありません。
とくに大なわとびなどや組体操など大勢で、相手の状況を見ながらタイミングを計りながらの協応運動や相手と併せたポーズを作るなどの目や手の協応運動が苦手です。また、ボール競技などボールの軌道を推測してキャッチしたり、打ったり、蹴ったり、ゲーム上の状況を見ながら適切なポジションをとったりすることが苦手です。

ですから運動会、体育祭のような学校行事で大勢の生徒と強調しながら、競技をすることができません。そのような子どもたちは、同じグループのメンバーから、動きの鈍さや反応の遅さを指摘されたり、負けた原因とされて批判を受けたり、動作が緩慢なことを馬鹿にされたり、いわゆる「いじめ」の対象となるのです。

まして、運動会、体育祭というのは、グランドで大音量のBGMが鳴り響き、大声援が飛び交う中で指示を受けることや、全体の状況を見て的確に行動しなければなりません。

自閉症スペクトラムの子どもたちの場合は、特に聴覚過敏から大きな音に過剰な反応を示すので、不安でいっぱいになり動揺が隠せなくなります。不安による緊張が余計に認知をしづらくさせているのです。また聴覚認知の弱さから言語理解苦手な子どもたちもいます。
そのような状況の中では、指示が聞きとれなくて当たり前です。

もともと上記のような運動の苦手さがあり精神的に後ろ向きなのにもかかわらず、全体を見ながら行動することを要求されても、視覚的な空間認知が苦手な子供たちなら、なおさら無理であることがお判りになるでしょう。

運の悪いことに運動会や体育祭で張り切っている先生方には、人一番目立ってダメな存在に、このようなつまずきがある子どもたちは映ってしまいます。
グランドという青空の下、気持ちが高まっている先生の怒鳴り声は容易に想像がつくことでしょう。上記のことが理由で運動会や体育祭は大嫌い。そして、不登校や二次的なつまずきのきっかけになった子どもたちは少なくないでしょう。

このようなことで、2次的なつまずきや精神的な不安定に悩まされている状況をトラウマといいます。
トラウマ(心的外傷)とは、外的内的要因による衝撃的な肉体的、精神的ショックを受けた事で、長い間心の傷となってしまうことを指します。これが精神に異常な状態を引き起こすとPTSDといい、2次的なつまずきでこのような状態になり時折パニックを起こす子どもたちが発達障害のある子どもたちに多いのが実情です。

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