[高等部通信7月号]学園長より~可能性の扉~2②

2021年8月9日

ここからは、今回の企業見学会を通して障害者就労で任せられる業務内容や求められている就労スキルを考察して「企業側はどのような人材を求めているのか」「採用されるためのスキルを身につけるにはどのようにしたら良いか」をお話したいと思います。

 

最近の企業が軽度知的障害者や発達障害者に求める傾向としては、手順を理解すれば、正確に仕事を遂行し、集中力や持続力が高い人たちの雇用を積極的に進めている企業が少しずつ多くなっているようです。具体的な仕事としては名簿作成、PCデータ入力、発送業務、資料作成、スキャン業務、ファイル整理、仕分け、校正、DM郵送、コピー、シュレッター、袋詰め、のり付け、宛名書き、押印、名刺作成、パンフレット作成、社内便等の事務作業などです。

 

産業別としては発達障害者の場合は卸売業・小売業が圧倒的に多く、サービス業、医療・福祉に続きます。知的障害者の場合は製造業、卸売業・小売業、サービス業、医療・福祉と続きそれ程の差はありません。職種別としては発達障害者の場合は販売、事務が目立ち、サービス業に続きます。知的障害者の場合は生産工程の職業が圧倒的に多いのが現状です。次にサービス業と運搬、清掃、包装等の業務が続きます。このことは高等部の実績としてここ数年大手ドラックストアの特例子会社への採用が続いていることでもわかります。次に金融などのサービス業での事務業務が高等部でも多くなっています。

 

高等部の生徒の皆さんには就労前に、指示の受け方や日常のあいさつ、報告・連絡・相談のいわゆる『ほうれんそう』の重要性などを徹底的に教えて送り出したつもりです。本当の理解や、職場でそのことが般化できるまでには、現場での体験を通して体で覚えていく他ないと思います。そう考えるのも、障害がある高校生や大学生に限らず、一般の高校生や大学生、大人に至るまで、学力や知識があるなしに関わらず、コミュニケーションを始めとした社会性が欠如した人たちがいかに多いかが企業の人事関係の方々と話す時に必ず話題に上ることです。

 

このようなことも踏まえて一般的には、企業はどのようなことを雇用に対して求めているのでしょうか。『発達障害の子どもと生きる』(松為信雄、幻冬舎ルネッサンス)に記載されている内容を抜粋します。

 

・毎日時間通りに出社できる
・働くことの意味(給料が仕事の成果に対して支払われていること)を理解している
・仲間と強調できる
・指示を理解し従うことができる
・「数える」「折る」「封入する」などの基本作業が正確にできる
・報告・連絡・相談ができる

 

逆に企業にとって困るのは、次のような人たちです。

 

・たびたび休む人や遅刻、早退が多い
・他の人と強調出来ない人やルールが守れない
・挨拶や服装、身だしなみなどの基本ができない
(以上抜粋)

 

私はこれらに付け加えて、障害者雇用であっても以下のことは採用の条件だと思います。

 

・人の話に素直に耳を傾け、仕事の指示を嫌な顔せず受け入れて実行できる人
・明るくいつも元気な人で、他者にも目配りができる人
・何事もあきらめず、粘り強く前向きに頑張れる人
・人に助けを求めることができ、困っている人には自分のできる範囲ですすんで手助けできる人
・他人を攻撃したり、批判したりしない人
・勝手な判断で業務を遂行しない人
・トラブルや業務における問題、人間関係や仕事の悩みなどをすぐに相談できる人
・言葉で自分の気持ちをわかりやすく表現できる人
・自分のつまずき、できないこと、困難さを受け入れ、対処を自分自身で考えて実行できる人
・個人的な都合より会社の利益(自分の所属するチームの実績)を優先して考えられる人
・こだわりを無くし柔軟に物事を考え、先の見通しを立て物事に計画的に取り組める人
・約束や時間には厳格な人
この条件を満たすための人材を育てるためには、1年生からキャリア教育を推進して、「自分には何が向いていて、何ができるのか。」「働くことの意義は何か。」「働くとは具体的にはどういうことなのか。」について就労体験を通しながら具体的に考えさせ、自分なりの答えが導き出せるようになることが重要です。そのために、キャリア学習は3学年を通した継続的な指導で実践しています。

 

2011年1月に、中央教育審議会がまとめた「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」が答申され、キャリア教育を「一人一人の社会的・職業的な自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」と規定しています。そこで必要とされる4つの能力として「人間関係形成能力・社会形成能力」、「自己理解・自己管理能力」、「課題対応能力」、「キャリアプランニング能力」を挙げています。

 

1つ目の「人間関係形成能力・社会形成能力」とは、「他者の価値観やユニークさを理解して受け入れる。」「異なる年齢の人や異性など、多様な他者と場に応じた適切なコミュニケーションを図る。」「リーダーフォロワーシップを発揮して、相手の能力を引き出し、チームワークを高める。」能力などを習得することが目標になります。

 

2つ目の「自己理解・自己管理能力」は、自己の職業的な能力や適性を理解して、それを伸ばそうとする能力を習得することが目標になります。

 

3つ目の「課題対応能力」は、「職業についての総合的で、現実的な理解に基づいて将来を設計し、進路計画を立案する」「将来設計や進路実現を目指して課題を設定し、その解決に取り組む」能力などを習得することが目標になります。

 

4つ目の「キャリアプランニング能力」は、「将来設計に基づいて今やるべき課題を理解する」「多様な職業観、勤労観を理解し、職業・勤労に対する理解・認識を深める」「職業生活における権利・義務や責任及び職業に就く手続き・方法などがわかる」能力を習得することが目標になります。
以上に記した公教育でのキャリア教育の方針は、松為信雄先生の『発達障害の子どもと生きる』に記されています。

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