[高等部通信7月号]学園長より~可能性の扉~2

2020年7月27日

2、体験就労におけるソーシャルスキルについて

自然学園では、授業のカリキュラムにSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)があります。高等部のカリキュラムにある「ビジネスマナー」もSSTとして取り扱われる教科です。

通級が制度化され、ようやく高校での特別支援に動きがありました。2015年に高等学校における個々の能力・才能を伸ばす特別支援教育モデル事業が開始され、自治体でモデル校に指定された高校は学校設定教科として「ソーシャルスキルトレーニンング」や「自立活動(ライフスキルトレーニング)」や「ソーシャルスタディー」、生活力向上のための「コミュニケーション」などと称された教科を導入して、彼らの将来的な自立を念頭に置いたSSTを実践する方向性が示されています。

その中でコミュニケーション・スキルアップ・エクセサイズ(CSE)と称して1年次には、日常の会話場面を設定し、答え方によっては、相手の受け止め方に差が出ることを理解し、心地よい人間関係を築くための会話術を学び、2年次にはインターンシップ(職業実習)で考えられる場面を行い、実際のやり取りについて考えさせることで実際のビジネスの場面に応じて活用できるコミュニケーション力の習得をカリキュラムに導入していたモデル校も地方では実在しましたが、実際における通級での取り組みは難しいようです。

本来、考えられていた高等学校の特別支援教育では、発達障害がある高校生にとって企業就労に必要なスキルがソーシャルスキルだと位置付けているからに他なりません。働くためにどうしても求められるスキルを育むためにSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)の導入が必要とされていました。

では彼らに求められるソーシャルスキルとはなんでしょうか。私は企業の方々への実習のご依頼や卒業生が就職した企業への定着支援などを通して採用の基準として各採用担当者からお伺いする機会が多いのですが、どの企業も「勤怠」「情緒の安定」「コミュニケーション」に集約されるように思います。

まず「勤怠」で毎日の勤務が安定していると言うことです。このことは家庭での生活習慣が確立していることを意味します。睡眠、食事、入浴のルーティンが習慣化されていれば授業中居眠りすることもありません。毎日活気にあふれた学校生活を送れるはずです。

「情緒の安定」に関しては特に精神手帳を取得されている生徒は「合理的配慮」を期待されている方々が多いとは思いますが、職場で他の職員に迷惑をかけるような状況がある場合は就労すること自体が難しくなります。気持ちの落ち込みや不安、イライラからくる衝動的な行為はセルフコントロールできるスキルが求められます。「コミュニケーション」に関しては、聴覚・視覚からの認知について職場で求められるレベルが基準になります。具体的に言えば口頭だけの指示ではなく、メールや指示書など紙面での指示も含めた優位性に対する配慮はあるものの、個別での対応は期待できません。生産性を重視した職場では特別に個人に時間をかけることは効率性を落とすことになるからです。

自然学園高等部の授業でも「SST」「ビジネスマナー」「作業訓練」などが、時間割に導入されていますが、「作業訓練」は、グループ作業で必要な『協調や協働』のスキルが求められます。

それには、具体的には他者との人間関係の構築や「報告・連絡・相談」の「ほうれんそう」など必要に応じたコミュニケーション能力、他の人の状況や行動を認知できる洞察力などが挙げられます。

挨拶なども相手の顔色や様子などを認知したうえで的確な声掛けが社会生活の中では求められます。ただ一方的に顔も上げず「おはよう」「さよなら」など言葉だけ発しても人からは受け入れられません。人間関係やギクシャクしない集団生活をスムーズに送るために必要なマナーやルールまたはコミュニケーション力を高めて、相手を理解し協調できる力を学んでいく必要があります。

障害者雇用促進法に基づく障害者雇用の場合、企業は面接ではわからない発達障害の見えない障害を一定期間の実習で確認するのです。企業にとって体験就労は採用したい人材を発掘する唯一の機会なのです。中学校が実施する「職場体験」や「インターンシップ」とは企業にとって目的が違うのです。社員が日常業務で行う生産活動または営業活動を行う職場に人員として派遣されるので実習生と言え、そのことを阻害するような行為は許されません。ですから企業は学校側に今までの信頼関係を礎にそのレベルに到達した生徒を要求することは当然のことです。学校としても企業の基準に満たない生徒を企業に派遣する訳にはいかないのです。自然学園の授業はそのレベルに到達させることを目的として教員が生徒を指導しています。そのことに保護者の皆さんの御理解は必要不可欠になります。

これから予定している学園祭などあらゆる学校行事もソーシャルスキルを育成する活動の一つであり、実践する機会になります。授業で学んだことを般化できないとSSTの意味がありません。般化とは学んだソーシャルスキルが日常生活や職場、学校などにおいて状況に応じた適切な行動がとれることを意味します。

夏休みには、企業見学会や2年生以上の人たちには、企業実習がいよいよ始まる人もいます。3年生は採用を前提とした実習に望むことになります。そのためには、絶えず気持ちの安定を図り、自分自身で自分の気持ちをコントロールできる力を養わなければなりません。そして企業に受け入れられるソーシャルスキルを身に着けなければいけません。そんなことを意識しながらの1学期の残り少ない学校生活を有意義に過ごしてください。そしてもう一度、クラスメート一人ひとりを大切に思う気持ちを胸に抱きながら楽しい学校生活を送るように心がけてください。

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