[高等部通信7月号]学園長より~可能性の扉~3

2021年8月12日

3、自然学園高等部でのキャリア教育について

 

2015年に高等学校における個々の能力・才能を伸ばす特別支援教育モデル事業が開始され、自治体でモデル校に指定された高校は学校設定教科として「ソーシャルスキルトレーニンング」や「自立活動(ライフスキルトレーニング)」や「ソーシャルスタディー」、生活向上のための「コミュニケーション」などと称された教科を導入して、彼らの将来的な自立を念頭に置いたSSTを実践する方向性が示されてきました。

 

このような高等学校の特別支援教育における取り組みの理念は、就労の重要性と発達障害がある高校生にとって企業就労に必要なスキルがソーシャルスキルだと位置付けているからに他なりません。働くためにどうしても必要とされるスキルをSSTとして学んでいくのです。

 

では彼らに求められるソーシャルスキルとはなんでしょうか。私は企業の方々への実習のご依頼や卒業生が就職した企業への定着支援などを通して採用の基準として各採用担当者からお伺いする機会が多いのですが、どの企業も「勤怠」「情緒の安定」「コミュニケーション」に集約されるように思います。

 

まず「勤怠」とは、毎日の勤務が安定しているということです。このことは家庭での生活習慣が確立していることを意味します。睡眠、食事、入浴のルーティーンが習慣化されていれば授業中居眠りすることもありません。毎日活気にあふれた学校生活を送れるはずです。

 

「情緒の安定」に関しては、特に精神手帳を取得されている生徒は「合理的配慮」を期待されている方々が多いと思いますが、職場で他の職員に迷惑かけるような状況がある場合は就労すること自体が難しくなります。気持ちの落ち込みや不安、イライラからくる衝動的な行為はセルフコントロールできるスキルが求められます。「コミュニケーション」に関しては、聴覚・視覚からの認知について職場で求められるレベルが基準になります。具体的に言えば口頭だけの指示ではなく、メールや指示書など紙面での指示も含めた優位性に対する配慮はあるものの、個別での対応は期待できません。生産性を重視した職場では特別に個人に時間をかけることは効率性を落とすことになるからです。

 

自然学園高等部の授業でも「作業訓練/事務訓練」が時間割に導入されていますが、グループ作業では、技術的な器用さだけではなく、業務上で求められる「協調・協働」のスキルが必要になります。具体的には他者との人間関係の構築や「報告・連絡・相談」の「ほうれんそう」など必要に応じたコミュニケーション能力、他の人の状況や行動を認知できる洞察力などが挙げられます。挨拶なども相手の顔色や様子などを認知したうえで的確な声掛けが社会生活の中では求められます。ただ一方的に顔も上げず「おはよう」「さようなら」など言葉だけ発しても人からは受け入れられません。人間関係や集団生活をスムーズに送るために必要なマナーやルール、またはコミュニケーション能力を高めて、相手を理解し協調できる力を学んでいく必要があります。

 

障害者雇用促進法に基づく障害者雇用の場合、企業は面接では分からない発達障害の見えない障害を一定期間の実習で確認するのです。企業にとって体験就労は採用したい人材を発掘する唯一の機会なのです。中学校が実施する「職場体験」や「インターンシップ」とは異なり、企業にとって目的が違うのです。社員が日常業務を行う生産活動または営業活動を行う職場に人員として派遣されるので、そのことを阻害するような行為は許されません。ですから、企業は学校側に今までの信頼関係を礎にそのレベルに到達した生徒を要求するのは当然のことなのです。

 

また、学校としても企業の基準に満たさない生徒を企業に派遣する訳にはいかないのです。自然学園の授業はそのレベルに到達させることを目的として教員が生徒を指導しています。そこに保護者の皆さんの理解は必要不可欠です。

 

これらの目標に根差し、自然学園では、発達のつまずきがある子どもたちに様々な体験などを通してそれぞれの特性や能力に合った目標を持たせ、学ばせていくことを目指しています。卒業生の実績が全国の発達障害者の雇用の後押しになるように、発達障害がある子どもたちを対象にしたキャリア教育を確立し、その取り組みを広めていきたいと考えています。総合学習やソーシャルスキルトレーニング、学校行事、ホームルーム、キャリア学習講座、企業見学会、就労実習等を通して計画的に実践しています。

 

この夏の努力の結果と、秋からのもうひと踏ん張りが採用に結び付くことを信じています。3年生はゴールに向かって歯を食いしばって頑張りましょう。全力で支援していきます。

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