[高等部通信9月号①]学園長より~可能性の扉~②

2016年4月1日

体験就労を経験している人たちの仕事内容は生徒の皆さんによって違いますが、それぞれの仕事に一生懸命取り組んでくれているようです。ここでは、今回の体験就労で経験した仕事内容、求められたソーシャル・スキル、そして、それぞれの反省会を通じてどのような人材が、企業側が求めているのかを検証し、採用されるためのスキルを身につけるにはどのようにしたら良いかをお話したいと思っています。

いくつか仕事内容をピックアップして説明させていただきます。

最近の企業の傾向としては、手順を理解すれば、それにしたがって正確に仕事を遂行し、集中力や持続力が健常の人たちよりも高い、発達障害がある人たちの雇用を積極的に進めている企業が少しずつ多くなっているようです。

2018年から、発達障害者をふくむ精神障害者の企業の雇用が義務化になったことも影響していると思われます。2013年の障害者雇用の達成率は過去最高になり、去年から実施された2%の雇用率に対して、2%を上回っている企業が全体の46.8%という結果がでています。従来身体障害者の雇用率は障害者雇用全体の約76%で精神障害者の割合は4%しかすぎませんでした。しかし現状としては、身体障害者の雇用が難しくなっている現状があります。それは、身体障害者の60%が65歳以上の高齢者だからです。2007年に発達障害者支援法が施行され、障害者雇用促進法が改定され、発達障害者にも精神障害者保健福祉手帳の取得が可能になりました。この現状を受けて精神障害者の積極的な雇用に企業は舵を切っていくだろうと予想されます。

従来の精神障害者の中心は統合失調症や鬱などの精神疾患を抱えた人たちが中心でした。

そのような人たちのほとんどは、通勤することに困難さを伴う症状がある人たちなので、企業が雇用するには、難しい人たちでした。症状が改善に向かっているほんの少数の人たちしか雇用されなかったことが現状でした。今現在で企業も在宅での仕事を少しずつ増やして現状を改善しようとする動きがあることは事実です。そして、身体障害者の方々と同様に健常の方々の仕事の補佐できる人材として企業から、発達障害がある人たちが注目されています。

その中で、我々は、発達障害者の障害者就労は大きく変化していくことを期待しているとともに、本校の卒業生の実績が全国の発達障害者の雇用の後押しになるように、発達障害がある子どもたちを対象にしたキャリア教育を確立し、その取り組みを広めていきたいと考えています。

都内大手の保険会社の特例子会社では、今回の実習では封入の仕事に取り組みました。配送先と封入する手紙の宛名と封筒の送り先がPCでデータ管理されている送り先と合致しているかどうかを確認して、手紙をその他の資料とともに3つ折りにして同封し、封筒をのり付けして、出来上がった封筒を段ボールの箱にしまい、一括郵送する総務の受付に届けるまでの作業です。

のりを多くつけすぎて皺(しわ)が多くなりすぎてしまったことや、まだ乾いていない封筒が入った段ボールを床に落として封筒を汚してしまったことが、反省会でも彼の失敗としてかなり気になっているようで後悔しながら話してくれました。

会社側は、指導員の職員の方が、よくある失敗なので慣れていけば大丈夫です、と声をかけてくれました。逆にそのときその失敗を隠さずに、すぐに職員に報告し、次の対応の指示を受けたことにお褒めの言葉を頂きました。

また、ひとりの2年生の生徒は、郵便局の休憩室、階段、廊下、踊り場、食堂等の清掃の仕事を実習させてもらいました。反省会での話では、清掃を実施したエリアを、清掃後にコーチの職員の方から細かくチェックされて、少しでも汚れやほこりが残っているようなら厳しく怒られている光景を目の当たりにして、改めて仕事の厳しさや、サービスを提供した結果、お客さんやサービスを受ける側に喜んでもらい、納得してもらわないと、その対価としての給料をもらえる資格がないことが、実習を通して理解できたと話してくれました。

そしてそうならないために、教えて頂いた正しい手順で仕事をすすめ、必ず点検・確認を怠らないことを学んだそうです。

このことこそ、我々が1年生から実習に送り出す意義なのです。確かに高校卒業資格に結び付く単位認定の学習も大切なことですが、微分積分や三平方の定理ができても、世の中では何の役にも立ちません。むしろ彼らが実習を通して経験し、身に付けたことこそが、自立するために必要なソーシャルスキルであり、生きる力なのです。

彼らの就労前に、指示の受け方や日常のあいさつ、報告・連絡・相談いわゆる『ほうれんそう』の重要性などを徹底的に教えて送り出したつもりです。本当の理解や、職場でそのことが般化できるまでには、現場での体験を通して体で覚えていくほかないのだと思います。それは、障害がある高校生や大学生に限らず、一般の高校生や大学生、大人に至るまで、コミュニケーションをはじめとした、社会性が欠如した人たちが、学力や知識があるなしに関わらず、いかに多いかが企業の人事関係の方々と話すときに必ず話題に上ることです。

(つづく)

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