バンブー教室:バンブーだより5月号 学園長ブログ~可能性のとびら~-5
2025年5月19日
6,【Wisc-Vについて】
現在Wisc-Ⅳという知能検査がWisc-Vいう最新の検査になりました。一番大きく変わったところは、なんといっても測ることができる指標の数がWisc-Ⅳでは、4つ(言語理解、知覚推理、ワーキングメモリ、処理速度)だったところから5つ(言語理解、視空間、流動性推理、ワーキングメモリ、処理速度)に増えたことです。
比較頂ければわかるようにWisc‐Ⅳの4つの指標全てがWISC-Ⅴで新しい指数に入れ替わったわけではありません。Wisc-ⅣではPRI(知覚推理)と呼ばれていた、「初めて目にする情報から、適切な答えを推理する力」が、Wisc-Ⅴでは視空間(VSI)の「目にした物を理解する力」と流動性推理(FRI)の「与えられた情報をもとに適切な答えを推理する力」という2つに分かれたのです。下位検査の項目でも視空間(VSI)では積み木模様に加えて『パズル』が新しい検査項目になりました。流動性推理(FRI)では行列推理に加えて『バランス』が新しい検査項目になりました。この変化は特別支援教育が必要なお子様のつまずきを知るうえでとても大切な情報を支援する側にもたらせてくれることにもなるでしょう。
なぜ漢字を覚えることが苦手だったのか。板書を書き写すことが苦手だったのかがわかるための大きな情報がこの検査の新しい指標です。また視覚から認知が弱いと感じていた人が視覚からの与えられた情報をもとに的確な答えを推理する力は高い能力があることがわかることで同時処理的な指導が認知しやすいタイプであることも支援する側にとっては大きなヒントを与えてくれることになるのです。
今までのwisc-Ⅳでは、知覚推理(PRI)が低いという結果が出ていたお子さんはたくさんいました。しかし、このお子さんが、「目にした物を理解する力」が苦手なのか「与えられた情報をもとに適切な答えを推理する力」が苦手なのか、PRIの数値を見るだけでは分かりづらかったのです。中には、空間認識はとても強いけれどこれからのことを予測することは大の苦手、というお子さんもいらっしゃいます。その場合、PRIの得点は平均的なものとなってしまい、せっかくの強みに誰も気がつかない、という事態が起こってしまう可能性がありました。
それがWISC-Ⅴでは二つに分かれて、「目にした物を理解する力」と「与えられた情報をもとに適切な答えを推理する力」をそれぞれ見ることができるようになりました。WISC-Ⅴでは他にも変わったところがあります。それはワーキングメモリ(WMI)という、記憶する力をみるための指標に関する部分です。今までのWISC-Ⅳは、ワーキングメモリ(WMI)は「聞いたこと」をどれくらい覚えられるかという検査しかありませんでした。しかし、WISC-Ⅴには、「見たこと」をどれくらい覚えていられるかという力も測定できるようになったのです。ワーキングメモリは作業や動作に必要な情報を一時的に記憶・処理する能力です。
その能力は目で見たことを覚えたり、目にしたものを理解したり、目で見た情報をもとの適切な答えを推理するなどの視空間のワーキングメモリと聞いたことを覚える力と聞いたことまたは文を読んだ音を聞くことと同じように言語として理解したり、聞いたり読んだりする情報をもとに整理しまとめる能力や適切な答えを推理したりする言語的ワーキングメモリがあります。
具体的には板書を書き写し力などの能力は視空間的短期記憶と言われる目で見たことを一時的に保持できる覚える能力であり、視空間性ワーキングメモリと言う見た情報を処理する能力は図形の平面図(展開図)を立体として考え、立体の完成形を想像できる能力であり、ダンスやラジオ体操を模倣して覚えることにも必要な能力です。また言語的短期記憶とは聞いたことを覚え理解する能力で、人の話を聞くことや口頭からの指示を理解する能力などです。言語性ワーキングメモリと言われる音声情報を処理しながら保持する能力で作文、文章読解、算数の文章題はもとより話し合いなどの必要な能力なのです。
このようなお子様の能力的な偏りやつまずきがWISC-Ⅴでは指標によってよりわかりやすくなります。それによってご説明させていただいた具体的にできない教科やその教科の中でもできない課題が違っていることがお分かりになれると思います。算数なら計算、文章題、図形の問題、表やグラフの問題など国語なら漢字や文章の読解、作文などです。またそれらの習熟度によっても違いがあります。
自然学園でもWISC-Ⅴを新しい心理検査として活用しています。が検査のご希望がある人はお気軽にお申し出ください。
7,終わりに
保護者の方々にとって新学期に新しい環境になじめることができるかがお子様の勉強の遅れは最も気になることの一つではないかと思います。5、6月は多くの中学生にとって初めての学力考査がある月になります。試験が近づいても決して焦らなくても大丈夫です。保護者の方々も気をもむ気持ちは充分理解できますが、あまり厳しく言い過ぎて学習性無気力感が強くならないような状態を作らないように心がけてほしいと思います。勉強の遅れは後でも十分取り戻せます。大切なことは今までやってきたことを継続することと、勉強を嫌いにさせないことです。そしてなにより精神的な安定を図り、学習無気力のきっかけを作らないことです。
もしお子様の精神的面での異変や落ち込みの気が付きましたらすぐにご相談ください。
自然学園学園長 小林 浩