中学部:中学部通信8月号 学園長ブログ~可能性のとびら~-6(1)
2026年8月12日
6,計算はできるけど文章題ができない人たちの理由と克服するヒント
「中学校へ進学したのに、小学校の文章問題も解けない」という話をたびたび聞く機会があります。小学校の時に理解できなかった分数や割合などの基本的な概念を理解できない状態だけではなく、足し算、引き算、かけ算、割り算の意味さえも理解できない状態が続いている人が少なくないのです。
算数・数学を苦手とするお子様には、数処理といわれる「いち」「に」「さん」と言った数詞と「1,2,3・・・」という数字と具体物の「●」「●●」「●●●」を認知、認識して数的、言語的な処理ができる能力に原因が隠れていることが多いのです。「いち」「に」「さん」・・・の読みは聴覚的な認知を必要とし、数字の形は視覚的な認知を必要とします。そして、数詞や数字は、言語的な理解の基本になります。数処理に加え、文章題や図を使ったグラフ問題等に対応する具体物をイメージして視覚的に空間で操作するような推論的な処理が重なった3項の関係は、算数・数学の基礎となるものです。
小学校に入学してすぐに取り組むさくらんぼ問題はこの数処理を学ぶ学習です。5以上の数の足し算で必要とされる数の分解ができずに「くりあがり」「くりさがり」にたどりつけないお子様も、現在では多く存在しています。
これらに順番を表す序数性と量を表す基数性の理解(数概念)をあわせた感覚的なつまずきで、小学校時代に算数の授業がついていけないことが発達障害のあるお子様においてはほとんどです。特にLD(学習障害)傾向のお子様で算数障害がある人はこの2つの問題の克服が算数の学習のポイントになります。
「かず」の理解は順番どおりに数える序数性の理解が重要で、認識した数字を「かず」の順番として考えられる感覚です。そして、その数が系列の中の順番を表していることを理解する感覚的な概念です。このことの理解が弱い人は継時的な能力が弱く、順番にならんでいる数詞や数字の理解が弱いのです。正確な数を把握する学習の習得に困難さが生じてきます。
また「かず」を個数全体として理解する基数性の感覚が求められます。基数性は数が量を表すことが理解できることを言い、「大体のこのぐらい」と言う感覚的な概念です。基数性が弱い人は同時処理能力が弱く、まとまった「かず」を長さや大きさなどの量としてその違いに注目することができず、「ある数より3倍長い」と言うことの長さが感覚的にわからず、ある数を取り出し、その数がしめす量を長さや大きさ、重さとして判別できない感覚です。
このようなことをまとめて数概念と言います。「1」が1個のモノとして数えるためにあるのではなく、任意の数のモノをひとまとまりとして「1とみなす」ことができると分からなければ「単位」の概念の意味を理解することもできません。したがって分数、小数、比率などの概念がわからないと言うことになり、「ケーキを何等分するのか」「2等分したときのケーキの量はどのくらいなのか」を考えさせる文章題がわからず、分数の概念が理解できない小学校高学年の生徒が数多くいます。また、「何%の割引率ですか」「食塩水の濃度を求める問題」などは、小数の概念が理解できないことで割合が分からない小学校高学年の生徒も数多くいます。このようなお子様の算数の苦手さは、中学校の数学にも大きな影を落としているのです。
このような「数」に関係する感覚はワーキングメモリと密接な関係があります。
視覚からの短期の記憶をワーキングメモリ(視空間的短期記憶)と言います。計算や文章題はこの記憶を長期の記憶に頭の中で移し、かずの繰り上りや繰り下がりを計算していく処理が必要となります。算数・数学が苦手な人は、このワーキングメモリが弱いため計算に苦慮します。
「かず」を数えることに苦労して自然に数が数えられないため、数の順番や大きさを認識するためには数直線などの視覚的な手がかりが必須になります。それでは「かず」を数えることが自然にできません。これができないとワーキングメモリに負担がかかり、「1」と「いち」、「2」と「に」が結び付かないので、文章題が解けないのです。そして、文章題を解くためには「推論すること」が必要になってきます。文章題で書かれた文を読んで言語的な世界をイメージの世界に置き換える処理を必要とします。数字や記号、文章に記された対象物などを操作して数式に置き換える感覚が求められるのです。また算数障害と言われるお子様の中には「1」の意味が理解できないことが少なくないのです。
計算は暗算と筆算と分けて考えられますが、暗算は5や10の合成分解ができるようになることが必要です。筆算は繰り上がりやくり下がりなどの手続きの問題と多数桁の数字の空間的な配置と意味がわかる必要があります。ワーキングメモリの弱さがあるお子様には、計算の手続きを明確に示す工夫やマス目のある計算ノートなどを使って、視空間な認知のつまずきを支援する指導方法や教材の工夫が不可欠になります。
直面する問題や新しい状況に対して、目前の情報からルールやパターンを見出して、筋道を立てて解決する能力を養う能力を流動性推理と言います。このような能力は知能検査であるWISC-Ⅴの主要な指標の一つに該当します。また、一般に視覚優位や聴覚優位と言う言葉を聞いたことがあると思いますが、全体的には視覚優位な子どもたちが多いように感じます。特にゲームやアニメ、YouTubeなどに夢中になっているお子様の中に視覚的優位なお子様は多いと思います。





