高等部:高等部通信10月号 学園長ブログ~可能性のとびら~-7
2024年11月7日
7、SST(ソーシャルスキルトレーニング)について
発達のつまずきを気にされるお子様の状況として、保護者の方々にご相談を受ける内容として最も多いものは、「言葉の遅れ」「文字の読み書き」「指示の入りと理解」「動作の模倣」「他者との関係性とコミュニケーション」「落ち着き、集中力のなさ」「衝動性、パニック」などです。
これらのつまずきから、保育園、幼稚園に入園しても、「みんなと一緒に遊ぶことができない」「お遊戯がみんなと一緒に踊れない」「みんなと一緒に先生の話を聞くことができない」「ボール遊びができない」「お箸やスプーンがうまくつかえない」「ストローで紙パックの中のジュースがうまく飲めない」「一方的なおしゃべりがとまらない」「いつも落ち着かない」「鉛筆をもって絵や字を書くことができない」等の理由から先生方に指摘を受けて、発達相談の検診をすすめられているお子様の保護者の方々のご相談をよく受けています。
発達障害のお子様のこれらのつまずきは①認知機能の弱さ、②身体的不器用さ、③融通の利かなさ、④感情理解の乏しさ、⑤対人スキルの乏しさ、⑥不適切な自己評価などの特性からくることが多いと言われています。
「ソーシャルスキル」とは、対人関係や集団行動を上手に営んでいくための技能(スキル)のことです。言い換えれば、対人場面において、相手に適切に反応するために用いられる言語的・非言語的な対人行動のことで、その対人行動を習得する練習のことを「ソーシャルスキルトレーニング」といいます。前述した西永堅先生の『子どもの発達障害とソーシャルスキルトレーニングのコツがわかる本』には、ソーシャルスキルとは対人面で社会的ルールなどをイメージし、効果的・合理的に行動できる力(言語、非言語的な行動を含む)とされています。
ソーシャルスキルは先天的に獲得される能力ではありません。人は生まれてから多くの人たちと関わりながら知識を身につけ成長していきます。ほとんどの子どもはわざわざトレーニングをしなくても、親や周りの人の行動を見聞きしたり(観察学習)、「挨拶しなさい」「そんなことを言ってはいけません」などのように言葉で習ったり(教示)して、自然に社会生活に必要な行動を習得し、小さな成功体験を積み重ねることで自己肯定感も育っていきます。しかし、発達面にアンバランスさのある子どもは、それらのスキルの習得に何らかの困難さを抱えており、単に学校や家庭等で社会生活を過ごすだけでは適切な対人関係を築くことが難しいのです。
その困難さは、その子どもの持つ特性によってさまざまです。例えば、衝動性が高く感情のコントロールが苦手な子どもは、わがままで乱暴な子と誤解されたりします。また、人の表情が読み取りにくく場の雰囲気を理解しにくい子どもは風変わりな子・自分勝手な子と思われて友達との人間関係がうまく築けず、集団生活が送りにくかったりします。
特に、集団の中に入りにくい子どもにとっては、人との関わりの場を持つことが少なく、スキルの獲得が困難になりやすい傾向があります。そのため、このような対人関係につまずきを示す子どもたちがそれぞれの発達段階において獲得すべきスキルの習得のためにはソーシャルスキルトレーニングが必要となるのです。
ソーシャルスキルトレーニングは、以下のような方法を用いるのが一般的です。
①教示
そのスキルがなぜ必要か、そのスキルが身についているとどのような効果があるかを言葉や絵カードなどを用いて説明して教える。
②モデリング
手本となる他者の振舞い(スキル)を見せて学ばせる。または不適切な振舞いを見せて、どこに間違いがあるかを考えさせる。
③リハーサル
スキルを先生や友達を相手にして実際に練習してみる。主にロールプレイングの手法が用いられる。
④フィードバック
行動や反応を振り返り、それが適切であれば褒め、不適切であれば修正の指示を行う。
⑤般化
教えたスキルが指導場面以外のどのような場面(時、人、場所)にでも発揮できようにする。
ソーシャルスキルトレーニングを行う上で特に大切なことは、子ども自身がソーシャルスキルを学びたいという意欲を持つことです。自分が何に困っているのか、それを解消するためにどのようなスキルが必要であるのかについて認識できていることが重要です。
そのために指導者は、子どもの苦手なことや、困った経験などばかりを取り上げるのではなく、子どもの得意なことやうまくいった体験などにも焦点をあてて自己理解させることが必要です。その上で、ソーシャルスキルが身につけば苦手さのために困っていたことが改善されていくことを理解させていきましょう。