高等部:高等部通信2月号 学園長ブログ~可能性のとびら~-2

2025年4月4日

第19回自然学園定期講演会の報告

『「問題行動を怒らず、減らす。ほめれば変わる」

~発達障害がある子どもたちに効果的なソーシャルスキルトレーニング~』

星槎大学副学長、星槎大学教育学研究科教授 西永堅

自然学園では、発達につまずきのある子どもたちの理解を深めてもらう機会として、発達障害がある子どもたちの保護者の方々を対象にした定期講演会を開催しています。令和6年9月1日(日)に松為信雄先生から『「発達障害者の人が企業で働き続けるには」~求められる価値観とスキル~』をテーマにした講演を開催させていただいたのに続き、12月1日(日)は星槎大学副学長である西永堅先生から『「問題行動を怒らず、減らす。ほめれば変わる」~発達障害がある子どもたちに効果的なソーシャルスキルトレーニングの実践講座~』をテーマにした講演会を開催させていただきました。

西永堅先生は星槎大学共生科学部・星槎大学教育研究科教授兼で副学長を務められている先生なのです。西永先生の著書である『子どもの発達障害とソーシャルスキルトレーニングのコツがわかる本』を拝読させていただきご依頼しました。西永先生は大学でポーテージプログラムの研究をされていました。

ポーテージプログラムは、アメリカのウィスコンシン州のポーテージで開発された0歳児からを対象とした早期教育プログラムです。応用行動分析を日本に導入したプログラムの一つで、1983年に「日本版ポーテージ乳幼児教育プログラム」として日本で作成されました。

応用行動分析は、個人と環境の相互作用の結果、行動が出現すると考えます。日常生活の中で起こる行動を取り上げ、その行動がどんなきっかけ(出来事・刺激)で起こり、その行動に周囲の人たちがどのように対応しているかを調べることによって、その行動がいつ起こるかを予想したり、起こる行動を制御する働きかけを行ったりします。これは、子どもの行動を三段階(状況→行動→結果)に分け、それぞれの行動がどのような状況で起きたかということまでさかのぼって、どうすればより良い行動に変えていけるか、その対処法を考えていく手法です。

西永先生の著作である『子どもの発達障害とソーシャルスキルトレーニング』には、スキルは「技能」ではなく「学習性の能力」であると書かれています。特別支援教育を必要とされる発達障害の傾向がある子どもたちの「ソーシャルスキル」や「コミュニケーションスキル」や「読むこと」「書くこと」「聞くこと」にも関係している学習のつまずきなどの「アカデミック・スキル」は学習や練習の結果で大きく変わってくると書かれています。

発達障害傾向の子どもたちは、早生まれのお子様と同じように発達に遅れがあるからできないことが多いのです。4月生まれと3月生まれのお子様とでは差が生じるのと同じことです。子どもの現在の能力に見合ったできる課題を用意して結果を出すことが大事であり、結果が出ないのは教えるプロセスが間違っているとのことです。子どもはできるから練習を頑張れるのであって、できないから練習が苦手なのです。不登校の理由である無気力は学習におけるプロセスの問題であると言えるとのことです。

発達の偏りによってできないことがあることは、算数で例えるなら「さくらんぼ問題」や「5の数以上の足し算」のように、学年が上がり発達が向上することで、その偏りを解決してできるようになる課題はいくらでもあると思います。

西永先生は、できない課題を取り組ませ、できないことを指摘して無理にその課題に取り組ませることのプロセスがおかしいとお話しされているのだと思います。私は、例えば数処理ができない発達状況の人は、数のイメージがまだ持てない段階なので、学習のプロセスとしてはイメージが持ちやすい視覚的な手がかりを与えることが大切で、その問題に固執して何度も同じ課題を演習させてやる気をなくさせることではないという意味だと理解をしました。

現在、自然学園に在籍している生徒に実践している経験からしても、できない問題を繰り返しやらせることは学習意欲をなくさせるだけで全く意味のないことだと実感します。「さくらんぼ問題」ができない子どもであれば、「おはじき」などの視覚的な手がかりを与えることで、自分からその手がかりを頼りに「おはじき」を指差ししながら数え、一生懸命取り組めるようになります。答えを考える積極的な学習意欲を後押しすることが、学習が定着する支援であることを改めて感じました。

赤ちゃんが最初に「ことば」を獲得するときも、興味を持ったものを指差しし、その物の名前が自動車なら「ブーブだよ。」と教えてあげることで物の名前を覚え「ことば」を獲得していくのであって、「ことば」を一方的に教え込み植えつけるようなことではないと西永先生はお話しされていました。子どもから発信されたサインを見逃さず、フォローしてあげることが支援であるとのことでした。

そのようにしてあらゆる「スキル」を学ばせていき、そのスキルを具体的な行動目標に落とし込んであげるプロセスの大切さや、課題ができたことに対する成功体験でスキルが身についていくのだということを教えていただきました。だからこそ、できないことを叱るのではなく、できることを褒めることに、彼らが成長する大きなカギがあるのだと、私は西永先生の講演の趣旨をこのように解釈しました。

応用行動分析の原理は、すべてのスキルの向上に効果的であり、学習を繰り返すことで上記のスキルに必ず変化があるということを具体的にお話しいただいた内容でした。

自然学園では今後も保護者の皆様の関心が高いこのような講演会を継続していきます。

(※コラムに掲載されたものを一部抜粋しております。)

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