高等部:高等部通信5月号 学園長ブログ~可能性のとびら~-2
2026年5月26日
2、発達障害の二次障害と間違えられやすい精神疾患について
普通学級で特別支援教育を必要としている子どもたちが全国で約8.8%いると言われています。この統計は診断名ではなく教員が判断した特別支援を必要としている子どもたちの数です。そして、そのような子どもたちは医療機関に診察を受けても診断名がつかない子どもたちが非常に多くなっているとのことなのです。
自然学園高等部、大学部のお問い合わせをはじめとした相談に医療機関で統合失調症や乖離性人格症と診断されたとの話をよく耳にします。以前は自閉症や発達障害の専門の医師がいる精神科や大病院などではないクリニックなどを受診したケースでは、その症状から統合失調症を疑われるケースが多かったように感じています。現在、子どもの統合失調症の診断は激減し稀な疾患となっていて、以前は統合失調症と診断されていた子どもたちがASDと診断される機会が多くなったと思っています。
子どもの統合失調症は大人同様DSM‐5の基準に適合されています。ASDとの症状の違いとして、子どもの統合失調症は「幽霊が見える」といった幻視の頻度が高く、また妄想も大人ほど複雑怪奇ではないケースが多いとされていて、虐待やトラウマを受けた愛着障害傾向の子どもたちに見られるフラッシュバック体験や解離症状とこのような症状は鑑別も困難であると言われています。発達障害の場合は、乳幼児期に比較的早い段階から特性(模倣機能の障害、言語機能の障害、注意共有の障害、こだわり)が見え始め、思春期以降になって妄想など症状が露呈してくるのに対して、統合失調症の場合は児童期までは手のかからない、良い子と捉えられていることが多く、問題を指摘されることが少ないです。早い例では思春期の15歳から多くの場合は20代に、そして遅くても40歳ごろまでに発症します。
発達障害の場合は特性上からくる学校生活も含む生活の困難さに起因した情緒の混乱であるのに対し、統合失調症の場合は発症後の病態そのものなので、病気に分類できるとのことです。そして思春期以降に対人関係の障害(孤立、粗暴)が出現するとの違いがあるようです。発達の歪みから生じる問題行動などが積み重なり、自己肯定感の低さからくる居場所のなさや疎外感は情緒の混乱を引き起こし、フラッシュバックなどの症状が見えてきます。それが幻聴などと間違われる可能性があるのではないかと推測しています。
愛着障害は子どもに発達障害があると母子関係が形成しづらく、愛着の問題を抱えやすいと一般的には言われています。このような子どもは成長過程で発達の歪みを生じやすく、問題行動が多くみられ、学校環境の不適応などの経験から複雑性PTSDを抱えているケースが家庭環境以外の要因でも少なくありません。そのような子どもが大人になると対人関係がうまくいかない、情緒が不安定であり、アイディンティティの確立が困難で自分で人生の選択の場面で進路などの決定が自分でできないといったつまずきを抱えるようになります。
複雑性PTSDは、時に統合失調症や境界人格障害、乖離性人格症などと間違われやすい症状が見られるケースがあり、診断名が非常につきにくい状況が多いと思います。誤診されたケースでは間違った薬を処方され症状が悪化したケースもあります。
愛着トラウマを抱えた人は虐待や搾取を繰り返す親やパートナーさえも離れられず、見捨てられることへの強い不安があり、依存性が強く、一人では生きていけないという思い込みが強いことが特性です。そしてトラウマの苦痛から逃げれば逃げるほど強まってしまうのです。
愛着トラウマの改善は、自分にかっこつけるのではなく、みっともないこともさらけ出せることが精神的な強さと思えるようになった時に逆転が始まるとのことです。愛着の課題を抱えている人は、極端な二分法的思考が潜んでいるケースが多く、思考がゼロか百になりやすく両極で短絡的な認知の仕方をし、強固な自己否定があるようです。だからこそ大切なことは過去にとらわれずに自分が選択し自分が望んだ人生を歩んでいくことであるとしています。
苦しいことから回避しようとすることで解離のような症状があるケースや、境界性人格障害の症状が共通する場合がありますが、自傷行為や自殺企図を繰り返すような境界性人格障害の特性はなく、フラシュバックや悪夢などを繰り返すケースが複雑性PTSDでは多いとしています。家出や記憶障害もその特色であるとされています。いままでASD(自閉スペクトラム症)や統合失調症、乖離性人格症などに診断された人のなかに実は愛着トラウマの症状であるケースも多いのではないかと思われるケースがいくつかあります。
家庭と学校は子どもたちにとっての心の成長の場となります。いずれかに自分の居場所を見出すことができないお子様は、発達のゆがみが生じてきます。母親との信頼関係で培ったBeing(存在価値)は、自分の居場所がない学校生活で忘れ去られ、できること、すなわちDoing(行為)だけが評価の基準になります。できない人はまるで価値がないように扱われます。そんな環境では、誰もが自分が受け入れられているとは思わないでしょう。自分がいても良い存在であると扱われることで自分の存在価値への信頼が生まれると言うことです。
子どもは母乳を与える母親の瞳を見ていて、自分で視点を向けることはできないそうです。自分の認識できるエリアに入ってきたものだけを焦点を合わせて見ることができるのだそうです。母親の顔を見られるときは、いいことが起こるときに見られる風景であり、「見られている。ケアをしてくれる。」と言う意識を目覚めさせることに繋がるそうです。
動物より11か月早く生まれる人の赤ちゃんは自分をケアしてくれる人がいてくれるために、泣くことで自分をアピールして、心の成り立ちに必要なメッセージを送っているのです。そのことが、「自分が良いものだから良いことをしてくれる」と言う相互性の気づきになるのです。そして母親との間に自分の存在価値への信頼が生まれてくるとされています。
「人見知り」は生後6歳前後で始まり、安全でない人を感じ取る力がついてきます。母親との関係を自分の安全基地にいれ、自分の大切な人と感じ取ることで、はじめて見知らぬ人に関心を持ち、人とつながる広がりが出てくるそうです。以上のようなことがうまくいかず心の発達が歪んでしまうと愛着障害などお子様の目に見える問題行動が強くなるのです。
この時期の新しい環境の変化からくるストレスや勉強など難易度が向上したことに対する戸惑いや焦りからくるストレスが起因して、睡眠障害などが始まり情緒の混乱による幻覚や幻聴を感じたり、フラッシュバックから不安が強くなったり、統合失調症か二次障害か区別がつかない不安定さに襲われた経験がある人が少なくありません。
自然学園では創立以来在籍している生徒の変化が少しずつあります。知的な遅れがない自閉症傾向のお子様で高等部に在籍以前の小学校、中学校では、通常級や情緒級などの特別支援学級に転籍し、不安や緊張が強く、学校に居場所がなく不登校を経験している子どもたちが多くなっているように思います。そのようなお子様は医療機関の診断でも明確に診断名を告知されるケースは少なくなっています。抗精神病薬を処方されても一向に症状が改善せずにお悩みになっているケースをよく耳にします。そこで今回は医療的なものとして間違えられやすい精神疾患の事例をお話しさせていただきました。





