高等部:高等部通信5月号 学園長ブログ~可能性のとびら~ -2
2024年5月24日
2、不登校生の増加とその実情(2023年10月発表「2022年度不登校最新文科省統計」について)
文部科学省が公表した、一昨年度、全国の小中学校で30日以上、欠席した不登校の児童・生徒の数はおよそ29万9000人。35人学級の場合、1クラスあたりに1人、不登校の子どもがいるということになります。10年連続で過去最多を更新しました。ここ10年間で小学生は約4倍、中学生は約2倍に増えています。そしてこの2年間で小中学生の不登校生は約10万人に増えているのです。高等学校における不登校児童生徒数は、60,575人(前年度50,985人)で、前年度から9,590人(18.8%)増加しています。 在籍児童生徒に占める不登校児童生徒の割合は2.0%(前年度1.7%)でした。
いじめの認知件数は、小中高・特別支援学校で前年度比10.8%増の68万1,948件で過去最多となりました。児童生徒1,000人あたりの認知件数は53.3件(前年度47.7件)。重大事態となったいじめ件数は923件(前年度706件)で、前年度に比べ217件(30.7%)増加しています。小中高校から報告のあった自殺した児童生徒数は411人(前年度368人)。調査開始以来過去最多であった2020年度より2021年度は減少したものの、2022年度は再び増加に転じました。また、小中高校における暴力行為の発生件数は9万5,426件で前年度から1万8,985件(24.8%)増加しています。
文部科学省は、「新型コロナによる環境の変化が、子供たちの行動にも大きな影響を与えていることや、学校生活でのさまざまな制限で交友関係が築きにくくなったことなどが背景にある」と分析しています。学校行事やクラブ活動の再開で子どもたちの接触の機会が増えたことも一因であると言われています。いじめのみならず、暴力件数の増加も見過ごすことができない大きな事案だと思います。いじめとしては小・中・高校生とも「冷やかし、悪口、脅し文句、嫌なことを言われる」が最も多く、小学生、中学生は「軽くぶつかられたり、遊ぶふりをして叩かれたり、蹴られたりする」が次に多く、高校生は「パソコンやスマホでの誹謗中傷」が次に来ています。
私は、不登校やいじめのこのような統計を見ると、通常級に通う特別支援教育が必要な8.8%の生徒との関連性を考えてしまいます。ソーシャル・スキルと言われる社会的なスキルは集団の中で育まれるもので、クラスに居場所があって初めて他者と繋がるスキルが向上します。こうした関わりから他者との絆は築かれるものです。他者とのコミュニケーション面に特性がある子どもたちは不安が強くなり、コロナ禍でクラスや部活などでの他者との関わりが希薄になってくると、ソーシャル・スキルを育む機会がないため、余計に人間関係での緊張や不安が強くなります。その結果、コミュニケーションがうまく取れないことから人間関係のトラブルやいじめに発展しやすくなるのではないかと思います。暴言や暴力などに直結する衝動性や、人の気持ちが理解できない「心の理論」は発達障害傾向の子どもたちの特性でもあります。
文部科学省の実態調査における不登校のきっかけとしては小学校、中学校、高等学校とも「無気力・不安」が圧倒的に高い結果になっています。それ以外だと小学校は「親子関係」が続き、「生活リズムの乱れ、遊び、非行」、そして「いじめ以外の友人関係の問題」となっています。中学校だと「いじめ以外の友人関係の問題」に続き、「生活リズムの乱れ、遊び、非行」、そして「学力不振」と「親子関係の問題」がほぼ同様の順位になっています。高等学校では「生活リズムの乱れ、遊び、非行」が続き、次に「入学、転編入時、進級時の不適応」、そして「いじめ以外の友人関係の問題」となっています。
発達障害傾向の特別支援が必要な8.8%に該当するようなお子様の場合、そもそも「嫌なことから逃げる」ことや「自己肯定感の低さ、やる気のなさ、無気力」「不安、緊張感」「情緒の混乱」などの特性を持っています。そこに、認知発達の遅れや偏りからくる「授業についていけない」「指示が入らない」「集団行動ができない」「勉強がわからない」といった学校不適応状況が重なり、クラスに居場所がなくなり、不登校に結びつくことは必然的なこととして考えられます。
在校生の何人かが入学時に話してくれた中学校時代の悩みとして「ゲーム依存」などで睡眠時間が短くなり生活リズムが崩れてしまった話は、今の不登校の問題の核となる事です。そう考えるのは、先述のような状況に陥る子どもたちの特性として「コミュニケーションの苦手さ」「相手の気持ちが理解できない」など、人間関係を上手く築くことができないことが背景にある子どもたちが多いように思うからです。「いじめ以外の友人関係の問題」とあるように、認知発達の特性故に「自分の気持ちをうまく表現できない」「運動が苦手」「行動の遅れ」「学力不振」などに結び付くと「いじられる」などのからかいの対象になったり、疎外されてクラスで孤立してしまうといった問題が起こりやすい状況をんでいます。高等学校での不登校の場合、全日制だと単位が認定される出席日数が限定されているので、留年を選択するより転編入を選択する場合が多いと思います。高等部の入学相談でも、高校進学してすぐに「入学や転編入時、進級時の不適応」がきっかけで転入を考えているとのお問い合わせをよく受けます。
そして、文部科学省の不登校における実態調査の統計結果では、不登校の根本的な問題として保護者の関わり方を挙げています。具体的には「1.子どもが大切だからこそ過度の管理をする」「2.子どもに自立してほしいからこその放任主義」「3.子どもに将来成功してほしいからこそ期待している」の3つです。「1.子どもが大切だからこそ過度の管理をする」のケースのご家庭の場合、発達障害傾向があるお子様は自分で考え決断することを放棄し、自分らしさがなくなってしまう子どもがいます。保護者に依存する誤学習が習慣化されてしまうケースが多いと思います。また「3.子どもに将来成功してほしいからこそ期待している」場合であると、通常級での在籍を続けた結果、子どもの負担が大きくなるケースや、進学や成績に対して過剰に期待されるものの、親の期待通りにいかないことで無気力や非行行動が生じてくるケースをよく耳にします。発達障害傾向の子どもの場合、情緒の混乱から2次障害と言われている精神疾患が伴う場合も少なくないのです。
以上のように、昨年10月に発表があった「2022年度不登校最新文科省統計」の結果は、「不登校」は発達障害児童生徒の増加の傾向とも大いに関連性がある問題であると感じています。私自身も長い期間、自然学園をはじめとして不登校生や特別支援教育を必要としている発達障害傾向の子どもたちと関わっている中で、このような結果を複雑な気持ちで受け止めています。