高等部:高等部通信6月号 学園長ブログ~可能性のとびら~-3

2025年6月21日

4、体験就労におけるソーシャルスキルについて

自然学園では、授業のカリキュラムにSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)があります。高等部のカリキュラムにある「ビジネスマナー」もSSTとして取り扱われる教科です。

2015年に高等学校における個々の能力・才能を伸ばす特別支援教育モデル事業が開始され、自治体でモデル校に指定された高校は学校設定教科として「ソーシャルスキルトレーニンング」や「自立活動(ライフスキルトレーニング)」、「ソーシャルスタディー」、生活向上のための「コミュニケーション」などと称した教科を導入して、彼らの将来的な自立を念頭に置いたSSTを実践する方向性が示されていました。そんな中、コミュニケーション・スキルアップ・エクセサイズ(CSE)と称して、1年次には日常の会話場面を設定し、答え方によっては、相手の受け止め方に差が出ることを理解し、心地良い人間関係を築くための会話術を学び、2年次にはインターンシップ(職業実習)で考えられる場面をロールプレイで学習し、実際のやり取りついて考えさせることでビジネスの場面に応じて活用できるコミュニケーション力の習得をカリキュラムとして導入したモデル校も地方では実在しました。このような、文科省の発表に期待されていた特別支援教育を必要としている保護者の皆さんも少なくなかったと思います。しかし、実際における通級での取り組みは難しいようです。その理由は、発達障害がある高校生にとって企業就労に必要なスキルが業務に関する技術的なスキルではなく、ソーシャルスキルだと位置付けているからに他なりません。働くためにどうしても必要とされるスキルをSSTで学んでいくのです。

では、彼らに求められるソーシャルスキルとはなんでしょうか。私は、企業の方々への実習のご依頼や卒業生が就職した企業への定着支援などを通して、各採用担当者から採用の基準をお伺いする機会が多いのですが、どの企業も「勤怠」「情緒の安定」「コミュニケーション」に集約されるように思います。

まず「勤怠」は、毎日の勤務が安定しているということです。このことは家庭での生活習慣が確立していることを意味します。睡眠、食事、入浴のルーティンが慣習化されていれば授業中居眠りすることもありません。毎日活気にあふれた学校生活を送れるはずです。

「情緒の安定」に関しては、特に精神手帳を取得されている生徒は「合理的配慮」を期待されている方々が多いとは思いますが、職場で他の職員に迷惑かけるような状況がある場合は就労すること自体が難しくなります。気持ちの落ち込みや不安、イライラからくる衝動的な行為はセルフコントロールできるスキルが求められます。「コミュニケーション」に関しては、聴覚・視覚からの認知について職場で求められるレベルが基準になります。具体的に言うと、口頭だけの指示ではなく、メールや指示書など紙面での指示も含めた優位性に対する配慮はあるものの、個別での対応は期待できません。生産性を重視した職場では特別に個人に時間をかけることは効率性を落とすことになるからです。

自然学園高等部の授業でも「SST」「ビジネスマナー」「作業訓練」などが、時間割に導入されています。「SST」や「ビジネスマナー」では、グループ作業で必要な『協調や協働』のスキルが求められます。具体的には、他者との人間関係の構築や「報告・連絡・相談」といった「ほうれんそう」など必要に応じたコミュニケーション能力、他の人の状況や行動を認知できる洞察力などが挙げられます。挨拶なども相手の顔色や様子などを認知したうえで的確な声掛けが社会生活の中では求められます。ただ一方的に顔も上げず「おはよう」「さよなら」など言葉だけ発しても人からは受け入れられません。人間関係やぎくしゃくせず集団生活をスムーズに送るために必要なマナーやルール、またはコミュニケーション力を高めて相手を理解し協調できる力を学んでいく必要があります。

障害者雇用促進法に基づく障害者雇用の場合、企業は面接だけでは見えない障害を一定期間の実習で確認するのです。企業にとって体験就労は採用したい人材を発掘する唯一の機会なのです。中学校が実施する「職場体験」や「インターンシップ」と比べて企業にとっての目的が違うのです。社員が日常業務で行う生産活動または営業活動を行う職場に人員として派遣されるので、実習生とはいえ、その作業を阻害するような行為は許されません。ですから、企業が学校側に、今までの信頼関係を礎にそのレベルに到達した生徒を要求することは当然のことです。学校としても企業の基準に満たない生徒を企業に派遣する訳にはいかないのです。自然学園の授業はそのレベルに到達させることを目的として教員が生徒を指導しています。そのことに保護者の皆さんの理解は必要不可欠です。

これから予定しているサマーキャンプもソーシャルスキルを育成する活動の一つです。学園祭などあらゆる学校行事が、授業で学んだSSTを実践する機会になります。授業で学んだことを般化できないとSSTの意味がありません。「般化」とは学んだソーシャルスキルが日常生活や職場、学校などにおいて状況に応じた適切な行動がとれることを意味します。

夏休みには企業見学会や、2年以上の人たちの中には、いよいよ企業実習が始まる人もいます。3年生は採用を前提とした実習に望むことになります。そのためには、絶えず気持ちの安定を図り、自分自身で自分の気持ちをコントロールできる力を養わなければなりません。そして企業に受け入れられるソーシャルスキルを身に着けなければいけません。そんなことを意識しながら、1学期の残り少ない学校生活を有意義に過ごしてください。そしてもう一度、クラスメート一人ひとりを大切に思う気持ちを胸に抱きながら楽しい学校生活を送るように心がけてください。

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