ワーキングメモリを補う読解問題解法の方策
2025年10月5日
バンブー教室で通常級に在籍している中学3年生のお子様の学習支援についてお話しをさせていただきたいと思います。5教科全体の学力ではクラスで上位3分の1に入るレベルにいます。しかし、認知の発達にバラツキが見られ、視空間的な視覚記憶が優れている一方、言語的情報を記憶し処理することが苦手な生徒です。読解は、文を読み進める際に記述された内容を整理しながら読み進め、文章に記述されている登場人物の気持ちや動向をそれぞれ比較しながら考察できないと設問には答えられません。言語的なワーキングメモリの弱さが読解問題のつまずきに直結しているタイプでした。漢字や語彙の読みや意見の理解は問題がなく、音読ならスムーズに読み進めることができる生徒です。
彼は、漢字や語句など暗記することについては得意なのですが、文章読解については苦手で特に小説などの文学的文章では、登場人物の心情を理解できないことがよくありました。高校受験も控えており北辰テストでも最近では国語の点数が伸びていませんでした。そこで、読解でのワーキングメモリの弱さを補う方策として、夏休みからワークシートを使った学習方法に取り組みました。
使用した教材は、今年度の第2回北辰テストで文学的文章の問題として使用された泉ゆたか作の「横浜コインランドリー」でした。内容としては以下の通りです。
『登場人物は3人。横浜コインランドリー店長の新井真奈とそこの店員の中島茜、そして入学したての大学1年生鈴木健吾です。健吾はコインランドリーに長時間洗濯物を放置することが多く、茜は彼に注意をしましたが、「決まりがあるのなら貼り紙をしておいてくれ」と生意気な態度で言い返されてしまいました。ある日、その健吾が中学生の時に買ってまだ一度も着ていないカビの生えてしまった大切なTシャツについて、真奈に相談をするところから話は始まります。カビを落とすためのアルコールがTシャツを色落ちさせる可能性があることに健吾はアルコールの使用をためらいますが、真奈にも試着以来一度も着ていないお気に入りのTシャツがあることを聞かされ、思い切ることができました。
また、学校と家事の両立に苦労していると愚痴をこぼすと、茜もまた学生時代同じ境遇であったことを聞かされます。健吾は二人との会話の中で少しずつ心を開いていき、二人が商売ではなく心から健吾のことを心配してくれていたのだということに気が付き、二人に謝罪し心からのお礼を言ったところで物語は終わります。』
彼は、北辰テストではこのような設問に対して答えに結び付けることができませんでした。この文章は、文章問題の引用文の最初に登場人物3人の過去のいきさつとそれぞれの個人情報がまとめられ、枠に囲まれた文章で構成されています。この3人の情報を整理し、記憶にとどめながら文章を読み進め、現在の出来事として3人の会話文を読み進めそれぞれの心情を読み解くことで、3人の真意がわかる構成になっています。したがって、ワーキングメモリが弱いお子様が最初の枠に囲まれた文章を整理しながら3人の会話を読み進めるためには、ワーキングメモリの負担が大きすぎて処理する作業がおぼつかなくなってしまうのです。
後日、バンブー教室の授業では、こちらで作成したワークシートを使って、3人のそれぞれの職業や立場、過去のいきさつを記入し現状についてまとめ、真奈や茜の健吾に対する思いや健吾の心の変化、共有する過去の経験などをまず書き出しました。また、それぞれの場面ごとにイラストを使ってその場面をリアルに想像できるような補助教材を使い、場面ごとの会話や心情も整理しました。その後、作成したワークシートを参照しながら設問に向き合って問題を解いてみると、物語のそれぞれの場面やその場面における言葉のやりとりからくる心情の移り変わりも理解することができるようになり、主人公の気持ちを選ばせる選択問題の選択肢にも惑わされることなく、しっかりと正解となるポイントにフォーカスすることができました。
ワーキングメモリが弱い彼は、物語を読んでいくうちにそこまでの状況や展開が曖昧になり、今読んでいる場面の中でしか設問を考えることができなかったのです。また、文字からだけで場面ごとのシーンを連想する力も不足していました。ワークシートを見ながら問題を解くことでワーキングメモリの不足を助け、イラスト入りのプリントを使いながら物語をまとめることでその場面の展開を頭の中で正しく再現することができ、問題を解くことができました。選択問題の引っ掛け文章にも前後の文を読み解いて消去することができました。国語の読解問題だけではありませんが、苦手な事には必ず原因があります。その原因となるつまずきをフォローする支援を実行すれば苦手さはすこしずつ解消するはずです。そのような自分にあった学習を積み重ねる事によって、問題を解くためのコツがわかるようになります。
〈今回のワークシートを使った指導の手順〉

1,引用文の最初にある枠の中に書かれた登場人物の過去のいきさつと個人情報を書き出し、登場人物のキャラクターを明確に整理し、今後の展開である3人の会話の関連性をこのワークシートから参考にする。これを見ながら文章を読み進めていく。

2,読み進める中で明らかになった真奈や茜の健吾に対する思いや健吾の気持ちの変化を書き出し、共通する過去の経験や現在の状況を整理していく。


3,それぞれの場面ごとの行動や心情の整理の手助けとなるようにワークシートを確認しながら3人の会話をひも解くことにより、設題されている問題のポイントになる文章を読み解き、登場人物の気持ちを整理するイラストを使った補助教材を利用する。

4,ワークシートや補助教材を使って、場面や登場人物の心情を理解したのちもう一度設問を解くことで対象となる問題について全問正解することができた。




