高等部通信 学園長ブログ~可能性の扉~-3

2023年7月27日

3、修学旅行について

3年生の修学旅行に同行しました。自然学園では、毎年5月に高等部3年生の修学旅行を実施していましたが、コロナ禍で2年連続して中止になり昨年から再開しましたが、従来の日程での実施は今年からです。大宮から東北新幹線に乗車して一関駅で降りました。

1日目は、最初に岩手県の世界遺産である中尊寺金色堂を皮切りに奥州藤原氏の栄華の足跡に思いを馳せ、源義経など歴史に翻弄されたゆかりの地である平泉を訪ねました。生徒の皆さんは、途中の参道で見た古代蓮を見て、遥か遠い平安時代に思いを馳せていました。古代蓮とは、4代藤原泰衡の首桶から発見された蓮の種を800年もの時を経てよみがえらせた蓮で歴史のロマンを感じます。特に男子生徒は喜んでいました。

修学旅行の前に岩手県、宮城県を中心とした東北地方の事前学習を行い、私も1時限分、担当させていただきました。蝦夷の子孫や東北地方の豪族たちの子孫がその地で繁栄し、源氏が台頭するきっかけとなる前九年や後三年の役を経て藤原3代による平泉の浄土教文化が栄華を誇り、源頼朝に滅ぼされるまでの歴史を講義しました。3代秀衡の息子泰衡によって源義経が自害する経緯や、その泰衡のさらし首にされたミイラが、藤原4代のミイラとともに祀られている世界遺産「中尊寺金色堂」のエピソードを前以てお話させていただきました。

実際に中尊寺の案内を務めてくれた地元ボランティアのベテラン女性のガイドさんの話でも、東北地方でかつて栄華を誇った平泉文化を今でもとても大切に思っている気持ちが伝わってきました。東北地方の人たちの平泉に対する思いや地域によって語り継がれている歴史観に人の情と親しみを覚えました。ガラス越しの金色堂に少しがっかりした様子もありましたが、歴史的な背景を理解したうえで、中尊寺金色堂を見学したので、子どもたちも世界遺産の重みを少しは感じとりながら、興味深くガイドさんの説明を聞くことができたようです。また、中尊寺に行く前に昼食で食べた芭蕉館のわんこそばに3年生の生徒の皆さんは舌鼓を打っていました。中尊寺見学の後はお土産を購入し、少し早めにつなぎ温泉にあるホテルに行きました。前九年後三年の役と呼ばれる奥州10年戦争で名を挙げた源頼家が石に愛馬をつないで入浴したことが「つなぎ温泉」の名称の由来になっているそうです。ホテルの前には御所湖と呼ばれるダム湖と、新緑の樹木に囲まれた岩手山を一望できる広大な景色が広がり、沈む夕日に抱かれながら、かけ流し温泉の露天風呂から見える眺望に生徒の皆さんもうっとりして暫く時が止っているようでした。食事をしてからの交流会もそれぞれのグループに分かれてカードゲームに興じている生徒の楽しそうな笑顔を見るだけで幸せな気持ちになりました。夜は夜空に輝く北斗七星をはじめとした満天の星に胸をときめかせることができました。宮沢賢治もこんなロマンチックな星空を見ながら「銀河鉄道の夜」を書いたのだろうかと、その姿を想像するだけでワクワク感が止まりませんでした。

2日目は、小岩井農場から宮城県の仙台に向かい仙台市天文台を見学しました。小岩井農場ではグループ毎に分かれて農場内のオプションを楽しみました。岩手山がくっきり見える快晴で、大自然に抱かれながらアーチェリーや幌馬車などのアトラクション、フリスビーなど普段経験できない体験を満喫したようです。

仙台市天文台の展示室では、まるで宇宙を浮遊しているような壮大な錯覚に陥るような感覚にとらわれました。夜は、秋保温泉のホテルに宿泊し、大きな露天風呂に浸かりました。遥か昔、今から三万年以上も前の旧石器時代から人々が住み、生活を営んでいたとされている秋保の自然豊かな景色を眺めながら滝の流れる音に耳を傾けていました。とても気持ちがリラックスできました。また、露天風呂で日頃聞けない生徒のプライベートな話まで聞くことができ、楽しい一時を過ごせました。美味しい食事の後はカードゲームで順位を競い合ったり、私が中尊寺など修学旅行に関係する歴史問題を出題したりして、ハラハラドキドキ歓声を挙げながらとても盛り上がりました。クラスの絆がより強くなっているように思いました。3年生のほとんどが入学前はコミュニケーション力に問題があり、人間関係を築くことに課題があった子どもたちでした。お互いの個性を理解して、相手を気遣い、助け合いながらゲームに興じる姿を見て、いつのまにか高いソーシャルスキルを身に着けている一人ひとりの成長に胸が熱くなりました。自然学園の創立理念としている社会に参加するため力が、このクラスの中で確実に育まれていることを実感しました。

3日目は、松島湾をフェリーで観光しながら日本三景の一つである松島を堪能しました。そして最後に、東日本大震災で被災した旧荒浜小学校に立ち寄りました。現在、荒浜小学校は震災遺構として保存が決められていて、説明していただくガイドさんが校舎に在中しています。校舎の被害状況や被災直後の様子を伝える写真などから、荒浜小学校を襲った津波の脅威を知ることができます。また、ガイドの人からの説明で荒浜小学校における、地震発生から避難、津波の襲来、そして救助されるまでの経過を写真や映像で説明していただき、当時の様子を振り返るとともに、災害の備えについて学ぶことができました。また、荒浜地区の歴史や文化、荒浜小学校の思い出などもお話ししていただきました。小学校のベランダの鉄柵がよじれ、切断されているのを見ながら、津波の水圧のみならず、一緒に流されてきた家屋の瓦礫や鉄線、車などが、非常に速いスピードで津波と共にぶつかってくる様子を話していただき、なぜこのように校舎が破壊されたのかを知ることができました。津波は4階まである校舎の2階のかなり深くまで達したようでした。11年前の自然災害の惨状を一人ひとりが、自分のこととして受け止めて欲しいと思っています。日本の将来を担う子どもたちに、被災地の現状を見てもらうことが今回の修学旅行の大きな意義でした。

修学旅行は皆さんが今まで社会に出るために培ったソーシャルスキルを試すための集大成であると思ってください。「規律を重んじた行動」や「他者を気遣うことのできる思いやりある行動」を、3年間学びを共にしたクラスメートと共に実践することが大きな課題となります。この修学旅行を、これからも皆さんの大切な友達として付き合い続けることになるクラスの仲間との大事な思い出として残してください。修学旅行で経験した一瞬、一瞬がみんなの宝物です。決して失くさないように、心のポケットに大切にしまっておいてください。自然学園に入学してよかったと思えるような修学旅行になったことを期待しています。

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