高等部通信9月号 ◎学園長より ~可能性の扉~-3

2023年10月12日

3、定期講演会の報告

9月3日(日)に松為信雄先生による定期講演会を実施しました。私が2013年6月30日、初版『発達障害と向き合う』を拝読した際に感銘を受け、自然学園の定期講演会でお話ししていただきたいと考えていました。その頃、私が東京都ビジネスサービスが主催した障害者の就労支援セミナー、シンポジウムのパネリストとして参加した時に、偶然、松為先生が同じ会場で別のセミナーにご参加され、講演の後に声をかけさせていただき、直接定期講演会のご依頼をさせていただいたのがきっかけでした。

松為先生は働くことに結び付く社会人基礎力は家庭内、家庭外で何らかの社会的な役割を担うなど、その一翼を担う社会参加によって身に付き、それは社会人としての行動力(Action)、自立的に思考する力(Thinking)、チームで共同して働く(Teamwork)力の3つの能力であると言っています。

指示待ちではなく、自分の意志で行動し、目標を見据えて行動する力、そのために他者に協力を仰ぐ力とする行動力(Action)、はキャリア意識と結びつき、自分で動機づけを行いながら意思決定していくことが求められます。

松為先生は、講演の冒頭で9時から5時までの会社に拘束される勤務時間、すなわちこの時間帯に「働くこと」を実践するには、その後の私生活の時間帯である残りの夕方5時から翌朝の9時までの時間をどう過ごすかが重要であると仰っています。

この時間帯は、家族や様々な支援者の支援を受けながら社会人能力を育む時間帯です。松為先生が講演された社会人基礎力である職業準備性の階層構造として、その基盤となる健康管理と日常生活管理は日常の家庭生活で育まれるものです。これらは家族の協力なしでは成り立たないものです。そしてこの階層の土台がキャリア教育の基盤になります。その階層の上に苦手な人への挨拶、注意されたときの謝罪、および感情コントロールなどの対人技能があり、基本的な労働習慣に集結するのです。

この基本的な労働習慣は、職場における適応能力であり、職場でのあいさつや身だしなみ、一定の時間仕事に耐えられる体力や職務の遵守、報告・連絡・相談いわゆる「報・連・相」などの能力が必要とされます。また、職場の適応力は、仕事における業務の遂行力以上に働くために必要なことであり、このような階層の積み上げが基盤としてなければ企業で働くことは無理だとされています。そしてこの階層の積み上げには家族や様々な支援者の献身的な支援が必要とされているのです。だからこそ松為先生は職場での適応力も夕方の5時から翌朝の9時までの生活が重要だと仰っているのだと思います。

そして階層の頂点に職業適性があるのです。この階層で必要な社会人基礎力は自己理解が成された上で、自分の得意分野を伸ばし、不得意分野を改善するための自己啓発や精神的な不安定さに対するセルフマネジメント、セルフコントロールではないかと考えます。今企業には、個人の能力育成のため、個々の社員のキャリア志向に合わせた支援を行う人事施策が求められていて、そのための環境配備や人事配置などの合理的配慮を積極的に実践している企業が多くなっているのが現状です。

だからこそ、職場環境に適応できない状況は会社の責任でもあるので、自分にとってメリットのない職場や自分の適性、障害の特性を理解してくれない会社は辞めることも選択肢であるとも仰っていました。なぜなら、現在、発達障害者は売り手市場であり、これから予測される2030年の労働不足に対応するために政府が出した労働市場の作り方の方針でも、障害者就労で採用した社員にキャリアを積ませて、優秀な社員の発掘や定着に力を入れ、障害者就労から一般就労に移行しなくてはいけない時代が来ていると言っています。

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