[高等部通信3月号]学園長より~可能性の扉~4

2021年3月29日

4、お子様の個々の成長にどう寄り添うか?

自然学園の医療顧問をお願いしている海老島先生は東京都の世田谷区にあった梅ヶ丘病院(現在の東京都小児総合医療センター児童思春期精神科と子ども家族支援部門)の副院長でしたが、田中哲先生も東京都立梅ヶ丘病院精神科部長・副院長を経て2019年まで東京都小児総合医療センターの副院長として児童思春期精神科と子ども家族支援部門を担当され、現在も子どもと家族のメンタルクリニックやまねこの院長として海老島先生と一緒に現役で活躍しています。以前田中哲先生の講演会でお聞きしたことをご紹介したいと思います。

一般に1歳未満の赤ちゃんを乳児、1歳から小学校入学までのお子様を幼児と言います。小学校が学童期、中学生、15歳から25歳までが青年期と言います。思春期は一般には、12歳から17歳ぐらいまでを指し、小学校5、6年を前思春期、中学生頃を思春期初期、高校生頃を思春期中期、高校卒業時期頃が思春期後期と言われています。

思春期になると
①反抗的になる
②親から距離を置く
③精神的に不安定になる
④外見を気にする
などの行動があらわれてきます。

最近では体の成長が先で心の成長が遅れてくるもので20歳までに自立している人がほとんどいなくなったと言われています。現在は自立しなければいけない年齢は30歳までとされているという話がありました。

 精神分析の人の使う言葉で、doingという言葉があります。これは行為という意味です。これに対応する言葉はbeing。存在価値という意味です。今の人の評価は、見えやすい部分、doingで評価することになりますが、できない人は価値がないわけではなく、たまたまできない人も存在します。生まれたばかりの赤ちゃんはdoingが何もできません。その時に親が全てやってあげます。その中で一番大切なのは、そばにいてやること。泣いたらすぐに駆けつけることだそうです。その経験の中で人はbeing(存在価値)に気づくものであるということです。ですがこの社会、日々の学校生活の中で自分のbeing(存在価値)は忘れ去られてしまう。それを取り戻すのが居場所であり、人はいるだけでOKと言われる場所が必要であるとのことでした。

自然学園は創立理念にインクルーシブ教育を掲げてきました。インクルーシブとは包括的、包み込むという意味でインクルーシブ教育とは誰しもが望めば、普通教育が受けられるということです。障害やできないことがある人やつまずきがある人も合理的な配慮のもと普通教育を受ける権利があり、教育機会確保法はその機会を保障した法律です。公教育における特別支援教育は、インクルーシブ教育の実践を前提として、その教育を受けることになる生徒がその場所を居場所だと思わなければ、そのお子様を包み込み、教育的な配慮を行うまで到底至りません。

小学校では周りがライバルになり、自分たちで決めた枠組みを守ることを通して、認められるという体験をすることになります。この体験が自尊感情を育み、他者とのつながりを持つためのコミュニケーションを促し、ルールを守る力、自分を抑制する力に繋がります。心の成長には、社会性と自尊感情と自己コントロールの3つの柱があり、この柱に歪みがあると心の成長も歪んでしまいます。
社会性とは自分を大切にしてくれる人が必ずいると思って人とつながる力であり、共に生きていくことへの関心とよろこびと自分らしさを周囲に対して主張する力です。

自尊感情とは自分は生まれてよかった、ありのままで良いと思える力であり、自分をほめてあげたい気持ちや自分らしさに対する肯定的な評価に結びついてきます。

自己コントロールとは不安や不満に耐える力、嫌なことがあってもやっていける力であり、安心や安定の基準を自分の中につくり、自分らしさを維持する力ともいえるでしょう。

社会性の育ちは乳幼児が母親との関係の中で、乳幼児にとって自分に気が付いてくれる人は必ずそばに『いてくれる』ことで母親に対しての信頼につながり、母親と乳幼児の相互関係において自分の存在価値に気が付いていくのだそうです。母親との信頼関係において生まれた安心感、安全感が他者との関わり、人とつながる力になり社会性を育むとされています。また自分は『いても良い』存在として扱われることで自尊感情が生まれ自己肯定感を育てていきます。そして自分を見てくれる人の間の相互性があること(相互性の気付き)が、自己を抑制でき安定した気持ちの維持につながり、自己のコントロールができるようになります。

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