高等部通信11月号 ◎学園長より ~可能性の扉~-4-2

2023年12月24日

4、第15回自然学園『思いやり収穫祭』特別講演会-2

ソーシャルスキル(社会的スキル)とは、後天的に学習する能力であり、そのための学習がソーシャル・スキル・トレーニングです。ソーシャルスキルは社会的場面における対人目標を達成するために行われるもので、対人面において社会的ルールや相手の行動をイメージし、行動的・合理的に行動できる力を指します。言語だけではなく、表情や身振り、手ぶりなど非現実的なものも含みます。実社会で必要とされる能力であり、企業就労はこの社会的スキルがなければ成立しないものです。

 ソーシャスキルは学習性の能力なので、それが身についていない場合、発達障害があるからソーシャルスキルが身につかないのではなく「適切なスキルの未学習」、「適切なスキルの誤学習」と考えられます。ソーシャルスキルは普段の生活で学べるものだからです。普段の家庭生活での取り組みでこそ効果が発揮できるものです。ソーシャルスキルは通級や児童デイサービスなどのプログラムや授業の一環で学ぶのではなく、日常生活で自然に獲得できるものだからこそ、家庭生活での養育者との関わりの中での子どもを主体とした活動が重要になってきます。

 家庭でのキャリア教育と言える「家庭で実践できるSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)」や、具体的に、どのようなお子様との関わり方、育て方でソーシャルスキルは育まれるのか。育まれたスキルは働く力とどう結びついているのかを、特別講演会の内容からかいつまんでいくつかご紹介させていただきます。

ルールやマナーを守れる人を育むためには、家庭で実践されている家事の一部をお子様の役割として任せ、それを家庭内のルールとして本人も納得した上で実行することが家庭内で実践できるSSTとしてよく言われています。ルールを徹底するためによく行われる対応として、決められたルールを視覚的に絵で提示することがあります。しかし、抽象概念が発達していない発達障害の子どもたちは、禁止事項だけを貼り出されて規制されても、禁止事項を守るために「具体的に何をしたらよいのか」をイメージできない人が多いのです。例えば、「部屋を汚さない。部屋を片付ける」のルールなら、禁止事項を貼り出すより、「遊んだあとは決められた箱に定めた遊具をしまう」、「本、漫画はAの棚の定めた場所にしまう」などの片付けの手順に従って視覚的に構造化した方が、はるかにルールを守りやすくなります。

また、学校でのルールとして、「廊下を走らない」という禁止事項がよく壁に貼られています。実際に実行できる方法としては、禁止事項を提示するより「廊下を歩く」を視覚的に構造化して、歩く速度(前の人を追い越してはダメ)や歩くポジション(廊下の左側)など正しい廊下の歩き方を明記する方が「廊下を走らない」を守らせることに繋がる、より効果的な方法になるのです。このようなことに注意して、ご家庭で守らせたいルール、やらせたい役割分担を増やしていくことをご提案します。

 そして、決められたルールが守れなかった時に、自分の過ちを認めるスキル(自ら謝罪できるスキル)を次に教えてください。問題行動があった時に、自ら言い訳を言わせるのではなく、言い訳が出尽くすほど質問を本人にくり返し問い、本人の言い分を聞いてください。叱る理由を親から説明するのは、問題行動を自ら悟り認めた後にしてください。自分に非があった、だから謝罪する必要がある。この経緯を自ら認めることが「謝罪」を定着させるには重要です。加えて、自分の主張を謝罪の後に付けたすのではなく、「最初はこう思ったが、私のこのような行動が悪かったのです。」という謝罪を身につけさせることも大事です。とってつけたような謝罪をさせないことが誤学習を防ぐ方法です。そして、子どもが本当の意味で過ちを理解し、自ら謝罪した時はきれいさっぱり許すようにすることです。人に許される経験がなければ、人を許すスキルも育めないでしょう。

 最後に、自己決定力を高めるSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)として、なるべく早い時期から、自分でできることは自らの行動で本人に実践させることを心がけてください。保護者に頼らず、自分自身で自分の行動に責任を持ち、自分のことは自分の意思で決定さえることが自己決定力の育成につながります。保護者はその決定を見守り、支えてくことに徹することが大切です。「お使いを任せたら、購入する商品やサイズは指示を出さずに自分で判断させ、あとでその商品を購入した理由を聞く」、「病院などには自分一人で行けるようにしていき、自分の症状を自分で説明できるようにする、そして服薬は自分で管理させる」、「学校、習い事への送り迎えはせず、自分で行き帰りに道を選択し、一人で行けるようにする」、「傘が必要かどうか、学校に携帯するかどうか自分で判断させる」、「季節や気温に適した衣服を自分で選択させる」、「欲しい物などの欲求は言葉で理由と共に明確にお願い、要求することを習慣にする」。これらのような、日常の何気ないお子様との関わり方に気を付け、意識的に自己決定の機会を与えることで、驚くほど自立するために必要なスキルが育まれるものです。

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