[高等部通信11月号]学園長より~可能性の扉~2

2021年11月4日

2、感覚統合の問題

自然学園高等部では、農業体験学習として春日部の農家の方が所有する田んぼで、毎年春には、「田植え」、収穫時の秋には「稲刈り」を手刈りで実施することを恒例行事としています。コロナ禍でなければ脱穀後、精米したお米をおにぎりにして生徒には食べてもらっています。何も入っていない塩むすびの味が一生忘れられない思い出として記憶されている卒業生は少なくないはずです。

生徒の中には、田んぼの「ドロドロ」「グニュ、グニャ」「ズブズブ」といった足に感じる感覚がどうしても我慢できずに、田んぼから逃げ出してしまうお子様がいます。また学校の体育の授業では「縄跳び」、「跳び箱」、「マット運動」、「鉄棒」、「ボール運動」ができないお子様もたくさんいます。体育以外では「朝礼の整列ができず、いつもふらふらして先生に注意される」、「ノートをとることが遅く、先生に板書を消されてしまう」、「ハサミや彫刻刀がうまく使えない」などの悩みを聞くこともよくあります。そんな字を書くなど手先を使う作業、体を使う運動が苦手なお子様は、「感覚統合がうまくいかない問題」が起因している人が多いと思われます。このような人は、人の真似をして動くことが苦手な人も多く、そのほとんどは、学習発表会や運動会などで保育園や幼稚園の時期から周りに合わせて整列することなどを苦手としている人たちです。

感覚統合とは五感(視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚)のような意識できる感覚と自分では意識できない感覚(固有受容覚、前庭感覚)の2種類があります。これらを脳の中でうまくコントロール、調整することで自分がイメージする身体の動かし方がイメージでき、力の加減もコントロールすることができます。感覚統合に問題があると固有受容覚や前庭感覚を脳でうまく処理できず、コントロールや調整が上手にできないのです。そのことが手先の器用さにつながる微細運動や体全体を使うような粗大運動に関係すると言われています。

固有受容覚は抱っこを求める自己存在感にも影響するばかりか、人がしていることを真似できる身体のイメージの把握や、飲み物をそっと注ぐ時の力の加減、動きのコントロール、自分の下駄箱の位置を把握する距離感、方向の把握および文字の学習で必要とされる一連の手順の記憶など、様々なことに大きく起因する無意識の感覚です。

また前庭感覚はなわとびをするときの姿勢とバランスの発達にも関係し、鬼ごっこをするときの視空間の認知に影響する眼球運動やジェットコースターに乗って過剰に興奮することを抑える覚醒の調整、車酔いを防ぐ自律神経系の調整にも大きく起因する無意識の感覚です。

発達障害を抱える子どもは、これらの感覚に敏感過ぎたり、逆に鈍感過ぎたりする故に、日常生活において困難さを感じることが多いのです。感覚の受け取り方や調整能力・処理過程に問題があり、いわゆる脳の神経回路の伝達の問題なのです。だからこそ、このような特性がお子様に見られた時は、早期に感覚統合の訓練をすることで適切な行動の獲得が可能になる場合が多いと言われています。別な見方をすれば、このことが原因になって学校生活に適応できないケースや授業についていけず学力不振で悩んでいるケースも多いのです。

発達性協調運動障害もこのことの延長上にある一つの事例と言えると思います。医療機関の診断で他の発達障害の症状と比較して優位性がない場合は、発達性協調運動障害とは診断されず優位性のある症状が診断されます。しかし、発達性協調運動障害とは診断されずとも感覚統合の問題が起因して発達性協調運動障害に見られる苦手さがあるお子様は高等部のお子様方には多いでしょう。保育園や幼稚園の時から自分の身体のイメージの把握することができず人がしていることを真似できないため、お遊戯やダンスをする際に他のお子様と合わせられない苦手さがあったことを聞くことがあります。小学校になると姿勢とバランスの発達の遅れからなわとびができない苦手さや、朝礼や運動会などの整列や行進などに苦手さが表れ、よく注意されることから学習発表会や運動会が近づいてくるとおなかが痛くなるお子様の話をよく聞きます。運動会をきっかけに不登校になったケースはよくあることです。眼球運動がスムーズではないことから、ドッチボールや鬼ごっこなどに影響するように、運動会の競技種目でも影響することがあるでしょう。運動の苦手さは中学校や高校までお子様のコンプレックスになっていることがあるでしょう。

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