高等部通信2月号 学園長ブログ~可能性の扉~-3

2023年2月20日

3、発達障害がある子どもたちの通常級での割合が増加したとの報道に触れて

 

通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある児童生徒について、実態や支援状況を明らかにするため、文部科学省は2022年1~2月に調査を実施し、全国の公立小中高校から対象校を抽出して集計・分析した結果が2022年12月に公表されました。その調査によると、小中学校の通常学級に在籍する子どものうち8.8%が「知的発達に遅れはないものの学習または行動面で著しい困難」を示し、注意欠陥多動性障害(ADHD)など、発達障害の可能性があると推定された小中学生は8.8%で、前回調査(6.5%)より多かったようです。全国の公立小中学校で推計すると7万人を超えるとされていて、2006年に公表されていた7000人が、約20年で10倍にまでなっているといえます。

メディアの報道で、文科省の担当者は増加の要因について「保護者や教員の発達障害への理解が進み、対象者に気づきやすくなった」との分析を公表していて、学習面などに困難が生じる児童生徒の割合は学年が上がるほど低くなる傾向があると考えられています。高校生は今回初めて調査対象となり、発達障害の可能性があるとされた生徒は2.2%でした。

障害や学習の困難を抱える児童生徒は、その程度に応じて特別支援学校や学校内の「特別支援学級」で学んでいます。現在、特別支援学級の在籍生徒数も2倍に膨れ上がっているようです。ただ、今回の調査で発達障害の可能性があるとされた小中学生のうち、通常学級に在籍したまま必要に応じて別教室などで授業を受ける「通級指導」を利用していたのは10.6%で、教室内の座席の配置や本人の習熟度に応じた課題など、教員による「授業での個別の配慮・支援」さえ受けていない児童生徒が43.2%もいました。

そのような生徒のほとんどは教員側から見ると授業についていくことが困難な生徒で、知的な遅れがさほど問題ではないのにもかかわらず「教科書を読むこと」「板書をノートに書くこと」「先生の話を聞き取ること」「先生の質問に答えること」が困難で集団授業に参加できない生徒も多く含まれていると考えられます。

そして、これらの「授業での個別の配慮・支援」を受けていない43.2%の児童生徒の中には勉強に意欲をなくし、自己肯定感が低くなり、無気力、情緒の混乱、不安の強さなど具体的な症状が現れてくることもあります。一般的に2次障害といわれる不登校をはじめとして家庭内での器物破損、暴力、鬱や強迫性障害などの精神障害などの状況がみられている実情も無視できない現状だと考えます。

勉強に苦手さを感じている人たちのほとんどが読むこと、書くことに苦手さを感じています。授業に参加できなくなるきっかけの一つとして、板書をノートに書き写すことの苦手さを掲げている人がたくさんいます。板書に苦手さがあれば書き写すことで精いっぱいで先生の説明を聞くどころじゃないでしょう。どんどん先に授業は進んでしまい、まだ書き写し切らないうちに、次のテーマに進むために書き写していた板書の文字を消されてしまいます。

そんなことを繰り返し「もう勉強なんかどうでもいい」と感じている人は少なくないのではないでしょうか。このような人たちは決して勉強ができないわけではありません。多くの人は視空間のワーキングメモリに問題があり、黒板に書かれた文字や記号を頭の中に短期間、記憶しておくことが苦手な人なのです。文字の形状をうまく写しきれず、形作れない人は、文字の大きさが揃ってなく、枠にうまく収められなかったりします。

文字や記号、数字の形を読み取れない人は眼球の運動に問題があると考えられていて、うまく書く作業に苦手さを感じている人は、感覚統合の問題で困難さを生じていると考えられています。教科書および教科書ワークなどに書かれている文章を書き出すことも苦手です。このようなタイプの人は漢字を覚えることも苦手な人が多いです。

読むことが苦手な人は、勉強の苦手さに直結します。試験に反映するような知識は、教科書に書かれている言葉を覚えるため、正確に文章を読み取ることができない人にとっては得点に結びつかず、勉強が苦手な人と判断されてしまいがちです。目で追う文字や記号、数字を認識できない人は、やはり眼球運動に問題がある人が多いと思います。このような人は文字を目で追っていると段落を飛ばしてしまったり、単語を飛ばして読んでしまうことがよくあります。

こうなると、文章を読むこと自体が面倒くさくなり教科書を開くこともしなくなるでしょう。文章の文字や記号などは目で追うことができ音読はできるものの、文章を読んで内容を理解することが苦手な人もいます。このような人は言語的ワーキングメモリが弱いので、センテンスが変わってしまうと前に書かれていた内容を保持することができないため、長い文章になるほど書かれている内容全体の理解に結び付かないのです。主人公の気持ちの移り変わりなどを読み取ることも困難です。

国語の読解問題で、抜き出しの解答を文章中で見つけることができても、定められた字数内でまとめ、書き出すことは非常に困難さを生じてしまいます。作文や、人前で相手に伝わるように自分の気持ちを表現することも同様です。このこともワーキングメモリが関係していて、頭に思い浮かんだ答えとなる箇所を短期的に記憶して、整理して一つのセンテンスにまとめる作業は言語的なワーキングメモリが必要となります。

ワーキングメモリは頭の中のメモ帳と言われていて、情報を認知するための短期記憶であり、その記憶を保持して処理し行動を実行するために大きな役割を果たします。LD(学習障害)傾向の人たちをはじめ、発達障害傾向があり勉強の苦手な人たちのほとんどが、ワーキングメモリに問題がある人たちです。授業中、質問されても答えられない、板書がとれない、宿題ができない、テストの得点が取れない等の負担が重なって苦手な勉強から逃げ出してしまう子どもたちなのです。年齢が上がり思春期近くになれば、他の子どもとの比較の中でコンプレックスを持つようになり、自分に対しての自信を失っていきます。その不安な気持ちが2次障害につながっていくのです。

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