[高等部通信2月号]学園長より~可能性の扉~②

2017年4月19日

2、発達障害がある人たち(精神手帳、療育手帳取得者も含む)が働くために必要なこと

今月号は、現在3年生が直面している就労について、企業は採用に際してどんなことをポイントにしているのか、そのためにどんな準備をしなくてはならないのかについて、学校も含めた支援機関がしなければいけないことおよび、家庭での私生活における家族のかかわり方や保護者が本人に対してしなければいけないことをテーマにしました。

先日、2月10日に東京の高田馬場で行われた厚生労働省委託事業主催の『「ともに働く」を考える~精神障害のあるあなたへ~』というタイトルで行われた平成28年度、働く精神障害者からのメッセージ発信事業の一環である講演会が行われ、自然学園の定期講演会でもご講演いただいた松為信夫先生が、基調講演として「精神障害者の雇用と働く意義、職業的自立のための支援」を話していました。私も「働く発達障害者のメッセージ発信事業」の企画委員としてお手伝いさせていただいており、関連がある「働く精神障害者からのメッセージ発信事業」の講習会に参加しました。また2月15日には、私が企画委員である平成28年度、発達障害者就労支援者育成事業北関東ブロック、発達障害者就労支援者向け講習会が大宮で開催されました。発達障害がある人たちを雇用している企業の方々、また、そこで働く当事者の方および大学の社会福祉学部で障害者の雇用を専門に研究している先生や、障害者職業センターなどで行政の障害者雇用に関係する仕事をされているそれぞれの分野の専門家の人たちが、講演者として参加されていました。

そのなかで、在校生の皆さんやこれから就労を考えている発達障害がある人たちにも、非常に参考になることを精神障害者や発達障害者の方々が講習会で講演されていたので、そこでお話を伺ったいくつかの事柄についてお話しさせていただきます。

2月15日の大宮での発達障害者就労支援者向け講習会で埼玉県障害者職業センターの障害者職業カウンセラーの方からのお話の中に就労支援者のスタンスとして3つことが大切であるとのお話がありました。その3つとは、『①企業も重要な当事者であること②相手を知らずして支援は成り立たないこと③バランス感覚を意識した支援の実施』とのことでした。今回参加されて講演の共通した
テーマとしての総括的な3つであったので冒頭にご提示させていただきました。
まず数社の企業の方々のお話しの中で某企業の課長様から、障害者雇用に対しての方針として、「雇用契約は個人と本人との契約なので、会社で怒られた事を家で話して、そのことに母親などが介入して、会社に問い合わせがあったり家庭でも母親から会社での失敗を攻められたりすることに関しては、あまり好ましくないと思っている。」「社員の私生活に関して基本的に会社側は介入しない。」「社員のプライベートには立ち入らないという方針から社員の障害について、会社が把握するために本人から話を聞くような機会をあまり設けていない。」「社員が家庭的な事柄や障害が理由で精神的に不安定になった場合には支援者にお願いすることにしている。」などの発言がありました。
一般社員に対しての企業のスタンスと変わらない方針であると思いました。特例子会社とは言え一般社員も在籍しているので、以前の大企業のほとんどは、障害者雇用で採用した社員も対応は、それほど特別なことはしていなかったのではないでしょうか。ここでお話ししたのは合理的な配慮のかけらも見えないことに批判しているわけではなく、まだ多くの企業にはこのような考えが残っていることがむしろ一般的ではないでしょうか。

そうであるならば埼玉県障害者職業センターの障害者職業カウンセラーが提案した①の「企業も重要な当事者であること。」(就職を迫る相手ではなく、ともに就職実現に向けたパートナーとして、障害者と同様に障害者雇用の重要な当事者である。)のスタンスで就労支援者側が、積極的に企業に働きかけ、合理的配慮が受けられるように障害における情報提供を行い、当事者(生徒)に対しても障害が自分自身でコントロールできるようにしていくための支援をすすめていく必要性があることを改めて感じました。そして企業の使命である利益追求に対しても凸凹の高い能力を活用しながら、会社の利益に貢献できる作業が行える技術を養い、職場の人たちに受け入れてもらえるような社会性やビジネスマナーを育み、会社側の採用計画に充分組み入れることができる人材であることを企業に提案していくことが重要であり、実習で証明できる訓練を行うためのカリキュラムの大切さを実感しました。

次に②の「相手を知らずして支援は成り立たないこと」に関しても、2月10日に東京の高田馬場で行われた「働く精神障害者からのメッセージ発信事業」のシンポジュウムの中で座長を務めた松為信雄先生の企業に対する質問で「企業は障害に対する理解のあり方をどう思っているか。」と言う質問の企業側の回答として、先ほどの「社員のプライベートには立ち入らないという方針から社員の障害について会社が把握するために本人から話を聞くような機会をあまり設けていない。」と言う発言があり、会場にいた支援者サイドの関係者からもそのことに対する意見や質問が相次ぎました。座長の松為先生は、企業が雇用した社員の障害に関することを把握することは、差別とは該当しないと話しています。企業が社員の障害のことやその社員の家庭的な問題や私生活のことに介入しなければ、社員の定着のための支援は不可能であるとシンポジュウムに同席していた障害者就業生活支援センターの方もおっしゃっていました。

最後の③の「バランス感覚を意識した支援の実施」の意味は、支援者は障害者にとって強い味方でありつつ、企業の立場も意識できるバランス感覚が必要で支援者のゴールは障害者と企業の双方が納得できるマッチングの実現であるとのことですが、企業側からしてみると必要以上の配慮はしないとういう意見がほとんどでした。
私も納得できた企業の意見としては、2月15日に大宮で開催された発達障害者就労支援者向け講習会で某特例子会社の方が、一人ひとりの個性や障害特性を理解した支援によってモチベーションを向上させるための合理的配慮は必要だが、それが行き過ぎると社員の甘えにつながり、生産性の低下になってしまうと話していました。そのため適性などを考慮した時間当たりの生産性の管理を実施して生産性の向上を目指さなければ、甘えがモチベーションの低下につながってしまうとのことでした。非常に納得がいきました。
我々が行っている学校教育でも、自分のできないことがあるとすぐ人のせいにして、投げやりになる人がいます。自分のやったミスや破ってしまったルールは、おざなりにして、相手を攻撃する人がいます。自分は発達障害でつまずきがあるのだからと頭ごなしに怒られたことだけを主張して、そのことを認めようとしない人がいます。なんでも自分の思い通りに振る舞える環境を与えられることが合理的配慮ではありません。ほかの人に迷惑をかけたり、やらなければいけないことをやろうとしないで済ませたりすることが合理的配慮ではありません。そのことをここでは言っているのだと私は思います。
「働く精神障害者からのメッセージ発信事業」のシンポジュウムで、精神障害者の手帳を持っているある企業の社員から「今まで私は自分が仕事や職場でうまくいかなかったことをすべて人のせいにしてきたと話していました。会社の批判や上司、同僚の批判をして自分は悪くないと思っていた。だから2度会社を辞めることになりました。でもうまくいかないことは自分も悪いと自分のつまずきに向き合うようになってからは、仕事がうまくいき、定着できるようになった。」と言う話がありました。
座長の松為先生からのお話でも企業に採用されるポイントとしては、「なんでこのようになったのか、自分のどこが悪くてこうなったのかがしっかり考えられる人」であり、合理的配慮は、配慮を申し入れる側の準備体制が極めて重要であり、自分のつまずきを把握して的確に企業側に伝えることや生活の基盤、すなわち生活のリズムをしっかり保ち、服薬の管理を自分自身で行い、体調をキープすることが基本であると話されていました。
まさしく学校の授業でも同じですがイライラしたり、集中ができなかったりしたときは、薬を服用するなりして体調を管理し、それでも周りに迷惑をかける可能性があるならば、早退するか、時間を区切って別室で体調を整えることが、自分自身の責任として課せられているのです。会社に入社すれば必須のことになります。生活の管理は家庭での問題であり、保護者をはじめとする家族の支援と理解が不可欠です。だから先程お話しした通り、企業は私生活にかかわらなければ雇用を定着させることは不可能であるというシンポジュウムの回答につながってくるのです。

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