高等部:2月号学園長ブログ-3

2024年2月20日

3、特別支援教育を必要としている子どもたちの実情

自然学園創立の背景には、特別支援教育導入に向けて文部科学省が発表した特別支援教育の理念にある『LD・ADHD・高機能自閉症等の状態を示す幼児児童生徒が、いじめの対象となったり不適応を起こしたりする場合があり、それが不登校につながる場合があるなどとの指摘もあることから、学校全体で特別支援教育を推進することにより、いじめや不登校を未然に防止する効果も期待される。』、『幼児児童生徒については、障害に関する医学的診断の確定にこだわらず、常に教育的ニーズを把握しそれに対応した指導等を行う必要がある。』、『学校教育は障害者の自立と社会参加を見通した取組を含め、重要な役割を果たすことが求められている。』に感銘を受け、その実現に向けて民間の教育機関として微力ながら貢献したいという思いがありました。発達障害の特性である認知発達の偏りと言われる視空間ワーキングメモリの弱さや、聴覚的な言語に結び付くワーキングメモリの弱さ、「読み」、「書く」、「聞く」など学習や日常生活の基礎となるつまずきを補う学習アプローチによる学力向上の補助、コミュニケーション力の向上など、基礎学力の定着を手助けできる公教育を補う学びの場を確立し、社会参加に必要なソーシャル・スキルの育成を教育的な柱に置きながら、幼児期から成人になるまでにかけた継続的な支援の実践を理念に置いた新しい教育機関をつくることが私の夢でもありました。

昨年は、「発達障害グレーゾーン」、「発達障害もどき」、「境界線知能」という内容を扱った書物が出版され、このような聞き慣れない言葉が世の中に認知されていくに伴い、特別支援教育を必要としている子どもたちは発達障害がある子たちだけではないことも認知され始めました。通常級に在籍していて発達障害の診断が出ていない、ぱっと見は通常級の他の生徒と変わらないにも関わらず、発達障害における特性に極めて近いつまずきがあるグレーゾーンの子どもたちや、知的障害は認められないものの知的な遅れが見られるグレーゾーンの子どもたちが注目されるようになった年だったのではないでしょうか。また、不登校児童の問題も取り上げられるようになってきました。『不安・情緒混乱』、『無気力』と言った理由で、学校に行くことができなくなってしまった不登校生が半数以上を占めている事実は、発達障害がある子どもたちの現状にもリンクし、彼らの学校での居場所の無さが深刻なものになっていることが分かると思います。不登校生の4割以上がどこのフリースクールにも支援機関にも所属していない現状があり、家庭で引きこもってしまっている子どもたちも少なくありません。このような生徒たちそれぞれの困難さや苦手感の背景にあるつまずきに切り込んだ支援や、彼らが適応する教育環境を用意することこそ、彼らの居場所を確保してあげられる重要なファクターになるのではないでしょうか。これまでの自然学園での生徒への取り組みと、在籍生の成長過程が残してくれた実績は、時代を写す鏡のように確かなものとして、その取り組みの意義を表していると、私は肌身で感じています。

通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある児童生徒について、その実態や支援状況を明らかにするため、文部科学省は2022年1~2月に調査を実施し、全国の公立小中高校から対象校を抽出して集計・分析した結果を2022年12月に公表しました。その調査によると、小中学校の通常学級に在籍する子どものうち「知的発達に遅れはないものの学習または行動面で著しい困難」を示し、注意欠陥多動性障害(ADHD)など発達障害の可能性があると推定されるのは8.8%で、前回調査(6.5%)より多かったようです。また、発達障害と呼ばれる子どもは、全国の公立小中学校で推計すると9万人を超えるとされていて、2006年に公表されていた約7000人が約14年で14倍になっていると言える数字です。

メディアの報道で、文科省の担当者は増加の要因について「保護者や教員の発達障害への理解が進み、対象者に気づきやすくなった」との分析を公表しています。ただ、学習面などに困難が生じる児童生徒の割合は、学年が上がるほど低くなる傾向があると考えられています。高校生は今回初めて調査対象となり、発達障害の可能性があるとされた生徒は2.2%でした。

障害や学習の困難を抱える児童生徒は、その程度に応じて特別支援学校や学校内の「特別支援学級」で学ぶことができます。その在籍生徒数も2倍にも膨れ上がっているようです。自然学園高等部に在籍している生徒の皆さんの内、約85%は、中学3年生時に特別支援学級に在籍していた生徒です。最近『境界線知能』という言葉をよく聞くようになりました。知能検査の指数においてIQ84~IQ69までを『境界線知能』としており、境界線(グレーゾーン)の子どもたちを示しています。この中には、他の子どもたちと比べても、見た目では知的な遅れが分からない程度で知的障害にあてはまらないことから、通常級や支援級に在籍している子どもが多くいると言われています。そのような生徒のほとんどは、教員側から見ても知的な遅れがさほど問題ではないのにも関わらず「教科書を読むこと」、「板書をノートに書くこと」、「先生の話を聞き取ること」、「先生の質問に答えること」が困難で、集団授業に参加できない、もしくはついていくことが困難な生徒が多く含まれていると考えられます。各地域によって知的障害の認定基準は多少異なり、東京ではIQ75~IQ50までが軽度知的障害の認定基準に含まれ、埼玉県ではIQ70以下が軽度知的障害の認定基準になります。埼玉県の場合は、特別支援学級から特別支援学校の職業科や分校の受験を考えた場合、知的障害の認定が必要になりますが、医療機関でも埼玉県の場合はIQ75以上あるとなかなか認定は難しいのが現状であると思います。結論からすると、特別支援級に在籍している『境界線知能』の子どもたちは高等学校の進学を考えざる得ない状況ですが、特別支援教育を実践している高等学校がなかなか見当たらないことが実情であると言えると思います。

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